ビジネス
2014年5月22日
なぜ慰安婦像が建ってしまうのか?
[連載] 日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか【2】
文・山田順
  • はてなブックマークに追加

数の力とロビー活動で日本は完敗


 数の力に加えて、韓国系住民のロビー活動の活発さは日系住民の比ではない。ほかの住民も巻き込んで、自分たちの正当性を訴える。

 グレンデール市の場合、エスニックグループで最多を占めるのがアルメニア人で、市人口の約4分の1にあたる5万人にも上っている。これほどアルメニア人が多いということは、市議会の議席も彼らが多数を握っているということで、韓国系住民はここを徹底的に突いた。というのは、アルメニア人は、悲劇の歴史を持っているからだ。

 アルメニアでは、20世紀の初め、オスマン・トルコの統治下で約120万人が虐殺されている。アメリカにいるアルメニア人の多くは、この虐殺から逃れてやって来た人々であり、各地でアルメニアン・コミュニティをつくっている。グレンデール市はそのなかでもっとも大きなコミュニティの一つだ。

 これでは、「あなたがたアルメニア人と同じように、私たちも日本帝国の圧制で女性たちが性奴隷にされた」と訴えれば、慰安婦像建設に反対する声はかき消される。

 すでにアメリカの下院では、2009年に「日本の従軍慰安婦は人類に対する明白な戦争犯罪」と規定する決議案が採択されている。この決議案採択の原動力となったのは、共和党の有力議員で米下院外交委員会のエド・ロイス委員長である。彼は、グレンデール市近郊の選挙区の出身だ。

 バージニア州で、公立学校のテキストに「日本海」と韓国名「東海」の併記を採用させたのも、韓国人のロビー活動の成果である。駐米日本大使館は反対表明したが、州の下院議会は「併記法案」をなんと賛成81、反対15の圧倒的な差で可決してしまった。

 アメリカの議会専門メディア『ザ・ヒル』(The Hill)に、日本政府のロビー活動の状況がレポートされている。それによると、日本政府はワシントンDCにある「ホーガン・ロベルス」や「ヘクター・スペンサー&アソシエイツ」などのロビーイングの専門会社に委託して、議会へのロビー活動と情報収集を行っていたという。日本政府は、活動費用として「ホーガン・ロベルス」には1年間で52万3000ドル、「ヘクタ―」には19万5000ドルを払っていたという。しかし、この2社は、日本に批判的で有名なカリフォルニア州サンノゼ出身の民主党マイク・ホンダ議員らの慰安婦に関する発言を収集して、日本政府にレポートしていただけのようだ。結局、日本政府はお金をドブに捨てることになり、ますます韓国によるロビー活動を勢いづけただけになった。

 このバージニアでの圧勝劇を契機に、韓国はニューヨーク州とニュージャージー州でも「東海併記」のロビー活動を展開し始めている。さらに、オーストラリアでも慰安婦像の建立運動を開始した。






日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか
山田順 著



【著者】山田順(やまだ じゅん)
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社 ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースも手掛ける。著書に、『出版大崩壊』、『資産フライト』、『脱ニッポン富国論「人材フライト」が日本を救う』(いずれも文春新書)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)、『新聞出版 絶望未来』(東洋経済新報社)、翻訳書に『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)など。近著に、『人口が減り、教育レベルが落ち、仕事がなくなる日本』(PHP 研究所)、『税務署が隠したい増税の正体』(文春新書)、『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(SB新書)がある。
  • はてなブックマークに追加