ビジネス
2014年5月22日
なぜ慰安婦像が建ってしまうのか?
[連載]
日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか【2】
文・山田順
中・韓と比べると圧倒的に少ない日本の海外人口
中・韓と比べると、日本の存在感は弱まる一方だが、その大きな原因は、日本経済が低迷するとともに、日本人が海外にあまり出なくなったことにあると、私は考えている。出なくなったのは、企業の駐在員などを除いて、主に若者たちだ。日本人留学生は、アメリカでは激減している。これは、中・韓の若者たちがどんどん海外に出ているのと比べると、圧倒的な差だ。
グローバル化でこれだけ世界が狭くなっているのに、内に閉じこもる若者がこれほど多い国は、世界でも珍しい。もしそれが、日本が居心地がよく、夢が実現できる、やりがいのある国というのが理由なら、問題にすることはない。しかし、いまの日本が若者にとっていい国であると、私にはとても思えない。
韓国の外交通商部のデータによると、在外韓国人人口はいまや約700万人に達していて、そのうちの約250万人が中国、同じく約250万人がアメリカで暮らしているという。韓国人は、昔から半島をどんどん出て行く民族である。これは、中国人も同じで、その結果、世界の主な都市にはどこにでもチャイナタウンがある。一般に「華僑」と呼ばれるオーバーシー・チャイニーズの人口は、6000万人を超えるとされ、これはフランス一国の人口に匹敵する。
世界各国の人口統計による華僑人口上位国は、1位インドネシア(767万人)、2位がタイ(706万人)、3位がマレーシア(639万人)だが、4位はなんとアメリカ(346万人)である。ちなみに日本は13位(52万人)である。言うまでもないが、華僑は各国で独自のコミュニティを築き上げ、政治力も経済力も持っている。
このような中・韓両国と日本を比較してみると、日本の海外在留邦人数は2011年10月1日現在で、たった約118万人にすぎない。アメリカに約39万人、中国に約13万人である。この差がなにをもたらしたかは、もはや述べる必要はないだろう。
国家とは領土ではなくネットワーク
かつて人間は、この地球上を自由に移動していた。歴史をひもとけば、一つの民族が大規模に移動したことは数多く起こっている。また、近代においても、ヨーロッパ人は地球上のほとんどの地域に進出し、植民地によって自国経済を発展させてきた。日本人も、かつてはこの日本列島に世界中からやって来た人々が混血して成立したとされている。それなのに、歴史を経るにしたがって、世界はやがて閉じられていくようになった。民族が固まり、国をつくり、やがてさまざまな壁を築くようになった。とくに、19世紀から20世紀後半にかけて、民族を基礎とする国民国家が形成され、国境の画定と国籍の整備が進んだため、人々は次第に国家に管理されるようになってしまった。
国民国家の枠組みのなかで暮らすと、次第に世界がわからなくなる。だから、日本にいると、なぜアメリカの一都市に韓国の慰安婦像が建つのかわからず、無駄な抗議を繰り返すことになる。
しかし、いまや国民国家の時代ではない。グローバル化が進み、ヒト、モノ、カネは国境を越えて自由に動く。
とすれば、私たちはこのグローバル時代に合わせて、国家の概念を国民国家から変える必要がある。せめて、中国や韓国のように、人口の5%ほどの海外人口を持ち、そのネットワークのなかで、国家を成立させていくべきだろう。
韓国も中国も本国だけで成立しているのではない。両国とも、海外に築いた華人ネットワーク、コリアンネットワークのなかで成立している。その意味で、大英帝国を継承するイギリスも、海外人口約1000万人のネットワークのなかで成立している。同じく、世界中にグローバル企業と軍を展開しているアメリカもネットワークのなかで成立している。 しかも、いまやインターネットという国境なき世界が日々拡大している。つまり、国家とは地政学上の領土の上に存在するのではない。地球上に広がった「人間のネットワークこそが国家」だ。
(第2回・了)
【著者】山田順(やまだ じゅん)
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社 ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースも手掛ける。著書に、『出版大崩壊』、『資産フライト』、『脱ニッポン富国論「人材フライト」が日本を救う』(いずれも文春新書)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)、『新聞出版 絶望未来』(東洋経済新報社)、翻訳書に『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)など。近著に、『人口が減り、教育レベルが落ち、仕事がなくなる日本』(PHP 研究所)、『税務署が隠したい増税の正体』(文春新書)、『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(SB新書)がある。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社 ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースも手掛ける。著書に、『出版大崩壊』、『資産フライト』、『脱ニッポン富国論「人材フライト」が日本を救う』(いずれも文春新書)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)、『新聞出版 絶望未来』(東洋経済新報社)、翻訳書に『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)など。近著に、『人口が減り、教育レベルが落ち、仕事がなくなる日本』(PHP 研究所)、『税務署が隠したい増税の正体』(文春新書)、『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(SB新書)がある。