スキルアップ
2014年6月30日
なぜ人はゲームにハマるのか【補講2】パズル&ドラゴンズ
[連載] なぜ人はゲームにハマるのか【補講2】
文・渡辺 修司/中村 彰憲
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①'攻略方法の実践


 ドロップを揃えるコンボに関しては、いくつかの基本的な戦略が存在するようです。しかしながら、パズドラのゲーム内や公式サイトでは、このパズルに対しての攻略方法はほとんど知らされることがありません。

 そのためコンボを上手に組めるようになるためには、一般的な戦略を自分で発見したり、友人から聞いたり、外部サイトで調べるなどの方法がとられます。

 ドロップの連鎖発見まで、ゲーム内に制限時間が無いというデザインは、結果的にプレイヤーが、現実世界の時間の中で、いくらでも時間をかけて考えたり調べたり、聞いたりすることが可能なデザインということです。

 中には本作のパズル攻略用アプリなども提供され、パズルフィールドの画面をキャプチャーすることで、コンピュータにパズルの最適解を解かせる方法まで存在します。

 また、利用規定などのアナウンスで、これらの外部情報やアプリの活用が、公式に否定されていないという点も含め、このようなアプリの存在が、パズドラにおけるルド・ストラクチャー全体のバランスを崩壊させることはないと運営は判断しているともいえるでしょう。

 そもそも、このようなアプリを使うこと自体、プレイヤーにとっては"時間がかかるため面倒"です。このような時間とリスクのトレードオフは、このアプリの使用自体がプレイヤーに効率予測を生み出しているといえるでしょう。

 結果的に、負けられない一戦でのみアプリを活用するユーザーが多い実態も含め、運営サイドでは、アプリの利用がゲーム全体のルド・ストラクチャーに及ぼす影響は小さいと判断しているといえます。

 このように、"単純なパズルのコンボを解く"という点においても、多くのプレイヤーは、ゲーム以外の情報やアプリを活用することが可能です。

 プレイヤーはゲームソフトウェアから提供された以外の"効率予測"を実行することを実際に行うのです。これを想定したうえで、デザイナーはルドやルド・ストラクチャーを構築し、バランスがとれる範囲をデザインする必要があります。

 また、本作の操作方法にも言及したいと思います。

 従来の十字キー型のコントローラとは異なり、スマートフォンやタブレットで採用されている「指でドラッグする制限身体」を、本作では上手く活用しています。

 ドロップの配列は縦横きれいに配列されており、指でなぞることでドロップが入れ替わっていきますが、このとき上手に指を動かし、斜めにドラッグすることで、斜め方向にドロップを入れかえることができます。

 これは適度な操作における難易度を生み出し、実際に指で操作しているからこそプレイヤーに納得できる手法です。(十時キーでは、"上手に斜め"に操作ということが成立しない)

 また、ユーザーがこの操作を理解し活用することでパズル攻略の幅も広がる効果も生み出しているといえます。

 ゲームは時代と共に進化する工業製品としての側面があり、特に入力デバイスは時代に応じてダイナミックに変更されていきます。

 パズドラに採用されている、ブロックの入れ替え型のパズル自体を単体でとらえたとき、従来より様々なゲームに採用されているといえるそれほど新規性の無いデザインといえるかもしれません。しかし、本作においては、このようなタッチ型制限身体のデザインにより、さらに従来のパズルゲームをさらに一段進化させているといえるでしょう。

 以上のように、連鎖を発見するまでの猶予が無限に与えられているデザイン。4秒間の操作制限のデザイン。そして指を移動させる制限身体のデザインのすべてが、タッチ型、かつ通信機能が付いた情報端末デバイスを利用したユーザーが持ちえる効率予測を十分に踏まえてデザインされていることがわかります。

②コンボ数の拡大、③全体攻撃


 ドロップを3つつなげることで、1コンボ(連鎖)、さらに同時に複数組みのドロップを3つずつつなげることでコンボ数が増えてより強力なダメージを敵に与えることができます。

 さらに5つ以上ドロップをつなげることで、敵全体にダメージを与えることができます。 敵はプレイヤーが操作するたびに攻撃してくるわけでなく、残り何ターンで攻撃してくるかが明示されています。

 プレイヤーは、敵からの攻撃から得るダメージが可能な限り少なくなるような効率的が発生するようにデザインされています。つまり、どの敵を攻撃(または全体攻撃)するかを効率予測として導くデザインです。

 これは一般的な複数VS複数で行われるRPGのバトルシーンなどで見られる構造と同じものといえるでしょう。

 ここでは、先の①コンボの発見のルドを観察したように、パズルとカードの関係に関してルドを分析していきたいと思います。

 プレイヤーにとって、眼前のドロップフィールドの配置状況は重要です。そしてこれらの配置はランダムで発生するだけでなく、モンスターのスキルの発動によって、ドロップフィールド上のドロップ配置を変化させることも可能です。

 つまりプレイヤースキルの上限や、ドロップフィールドの状況では不可能な連鎖パターン上限も、モンスターのスキルで補うことができるという点が特徴といえるでしょう。

 つまり

 1)モンスターはパズルのスキルを補完し、敵の総合的なダメージに多大な影響を与える。
 2)パズルの成功可否で敵モンスターの撃破に多大な影響を与える。

などの循環構造になっているという点です。

 さらに加えていえば、ダンジョンの攻略で手に入れる魔法石を得ることで、ガチャをまわして新たなモンスターを手に入れることができる構造になっています。

 3)ダンジョンを攻略することで魔法石を手に入れ、レアモンスターを手に入れることができる。

 これらの構造を、もし"目的"と"手段"という言い方で説明するならば、1)2)3)は、相互に目的であり相互に手段である循環型の構造といえるかもしれません。

 つまり、「何のためにモンスターを手に入れるのか?」、「何のためにパズルスキルを高めるのか?」、「何のためにダンジョンを攻略するのか?」が、循環しているように見えます。

 しかしながら、行為上の手続きが循環していたとしても、ルド・ストラクチャーではそれぞれの3つが"効率予測"という概念で併記され、プレイヤー自身が相互にバランスをとる構造として示し、「複数の関係しあう効率予測の最適解をもとめる」というバランスモデルで示すことができます。

 その様子は天井からつりさげられたモビールかのごとく、個のルドも全体のルド・ストラクチャーも難易度といった観点において、適切なバランスが提供され、相互に影響しあっている状況といえます。

 このとき、"モンスターを集める"といった要素も、 "収集欲"といったプレイヤーの欲望で説明せずとも、ゲーム内のルド・ストラクチャーの構造自体において、強力にモンスターを欲する構造を作り出すことが確認されます。






なぜ人はゲームにハマるのか
開発現場から得た「ゲーム性」の本質
渡辺 修司、中村 彰憲 著



【著者】渡辺 修司(わたなべ しゅうじ)
2007年より大学の教鞭をとり、2010年度より正式に立命館大学映像学部准教授に専任。現職 日本デジタルゲーム学会研究委員、立命館大学ゲーム研究センター運営委員。1997 年 「FinalFantasy7 international」(株式会社スクウェア) でゲーム業界に参加後、多数の会社で企画・監督職として参加。代表作は、2008年「internet Adventure」(株式会社セガ) 原案・企画監修。2004年 エンターブレイン主催 第1回ゲーム甲子園 大賞受賞 「みんなの城」個人作品、2003年 メディア芸術祭審査員推薦作品 「ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国」(株式会社タイトー 2003年)、原案・監督職

【著者】中村彰憲(なかむら あきのり)
立命館大学映像学部教授、日本デジタルゲーム学会副会長、立命館ゲーム研究センター運営委員。名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程後期修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、立命館大学政策科学部助教授を経て現職。東京ゲームショウアジアビジネスフォーラムアドバイザー(2010ー2011)、太秦戦国祭り実行委員会委員長(2009-2012)などを歴任。主な著書に、「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ、アジア市場を担当)、「ファミコンとその時代」(NTT出版、上村雅之氏、細井浩一氏と共著)、「テンセント VS. Facebook」、「グローバルゲームビジネス徹底研究」、「中国ゲームビジネス徹底研究」シリーズ(全てエンターブレイン)など多数。「ファミ通ゲーム白書」においては創刊以来、一貫して中国及び新興市場を担当する。最近は、GPS機能を活用したゲーム的アプリ開発のプロジェクトにも参画し、GDC2012でも講演。博士(学術)。
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