スキルアップ
2014年6月30日
なぜ人はゲームにハマるのか【補講2】パズル&ドラゴンズ
[連載] なぜ人はゲームにハマるのか【補講2】
文・渡辺 修司/中村 彰憲
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④敵の撃破、⑤ダンジョンの継続、⑥ダンジョンクリア



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 パズドラでは1つのダンジョンに挑戦することで、複数回の「④敵の撃破」を連続で行い最後のボス戦をクリアすることで「⑥ダンジョンクリア」を成功させることができます。

 もしダンジョンの途中で全滅してしまうと、途中で手に入れたもの(例:手に入れたモンスター(卵))はすべて失ってしまいますし、もし全滅を受け入れて再トライした場合は、プレイヤー自身の"時間"を失う構造です。

 これは、『なぜ人はゲームにハマるのか』の10章「効率予測と時間」で以下の構造の中の、②の構造といえます。

 ①同じ難易度のものに対しては、より挑戦の度合いの高い条件へ挑戦(より早くに目標を達成することへの挑戦)
 ②難易度自体がより高いものへの挑戦(目標達成のためにより時間がかかる難易度の選択)

 この構造は、通常のRPGなどで親しまれた単体のバトルと、それが連続したダンジョンの構造と同じです。

 そのため、多くのプレイヤーにとって、この構造は、ほとんど解説が無くとも体感しなれた、ルドナレームとルド・ストラクチャーといえるでしょう。

 しかしながら、多くのRPGなどで見られる構造と異なる点があります。

 ダンジョンの挑戦が失敗した場合、通常のRPGであれば、"ゲームオーバー"などのデンジャーへの状態への移動が強制されますが、本作では、あくまでプレイヤーに回避可能なデザインを行っています。

 それが「⑤ダンジョンの継続」のルドです。もしバトルに敗れた場合でも魔法石を消費することで、バトルの途中から全モンスターのHPが満タンの状態で継続することができるため、もしそのダンジョンでレアな回収物が存在した場合、そのまま継続し生還して手に入れるのか、その回収物をあきらめるかをプレイヤー自身に効率予測を与えるデザインです。

 魔法石はいくつかの条件でゲーム内でも無料で手に入れることができますが、お金を支払うことで、その場で購入することができます。

 つまりこれらの「ルド・ストラクチャー」は、コンティニューがしてもらえるようなダンジョンを用意することで、「課金につながる魔法石の消費」という効率予測を誘導するデザインが行われているといえるでしょう。

⑦スタミナの回復、⑧ダンジョンへの連続挑戦


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 スタミナはダンジョンに挑戦するたびに消費し、なくなることでダンジョンに挑戦できなくなってしまいます。しかし、一定の時間が経過することで自動的に回復していき、再度ダンジョンに挑戦できるようになっています。

 しかし同時に、魔法石ではスタミナの回復が行えるデザインが行われています。

 そして、このスタミナ回復に魔法石を使ってもらうために、(つまり、スタミナを魔法石で回復させる効率予測をプレイヤーに抱いてもらうために)、期間限定型のダンジョンを設置することになります。

 つまりレアなモンスターや効率のよい経験値やコイン(ゲーム内の貨幣)を手に入れるためのダンジョンが、期間限定で公開されることで、通常のスタミナ回復よりも、集中的に連続してダンジョンに挑む効率予測を発生させ、結果的に魔法石の使用(つまり課金)に結びつけることができるデザインになっているといえます。

 次に図を分けました。

 ここまで見てきたルドモデルはすべて⑧に収めれていますが、次の段階では⑧は2つの部分で利用されます。ルドモデルでは、入れ子型の構造をとっていますので、複雑なゲームの場合も、このような記述で、複数の図に分けて記述できる特性もあります。 さて、ここでは先に左側の「⑧ダンジョンへの連続挑戦」を、より上層のルド・ストラクチャーから観察した「⑧'ダンジョンへの連続挑戦(タマゴゲット)」を見ていきたいと思います。

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⑧'ダンジョンへの連続挑戦(ゲット)


 パズドラではモンスターを手に入れるためには、ダンジョンのバトルに挑むことでタマゴを手に入れる方法と、ガチャと呼ばれるシステムでランダムで手に入れる方法があります。

 ⑧'ダンジョンへの連続挑戦(タマゴゲット)では、敵を撃破し無事にダンジョンから帰還することでタマゴをゲットしモンスターを手に入れることができるルドです。

 先に示した通りレアなタマゴを手に入れた場合はなんとしても生還し、コンティニューという効率予測を行うプレイヤーに発生させるデザインといえるでしょう。

⑨ガチャによるモンスターゲット、⑩モンスターゲット



 ガチャを回すことでそれぞれのガチャごとに決められた確率でモンスターを直接ゲットできます。モンスターを入手することはバトルの勝利に極めて重要な貢献をします。

 モンスターの機能とは、すでに見てきたプレイヤーパズルスキルの補完。モンスターの基本性能(属性やHPやダメージ)、成長上限などがあげられます。

 ガチャを回して、新たなモンスターをゲットするためには、プレイヤーにコストを強います。

 一つめが友情ガチャで使う"友情ポイント"というコストを用いるデザインで、一人のフレンドから、一日一回だけお助けモンスターを呼び出すことで手に入れることができるデザインになっています。

 これにより多くのフレンドをゲーム内で結ばせるという連携感をもたらすデザインだといえるでしょう。しかしながら、パズドラでは従来のソーシャルゲームほどのコミュニケーション機能はなく、あくまでモンスターの貸し借り程度の関係しか構築させません。

 フレンドをランダムでマッチングさせる機能もありますが、どちらかというと友人にパズドラを進めるきっかけを作り出すためのデザインといえます。

 ただ、この友情ガチャでは強力なモンスターはゲットできず、レアガチャと呼ばれる魔法石を消費するガチャによって、強力なモンスターを入手する確率が高まるデザインになっています。






なぜ人はゲームにハマるのか
開発現場から得た「ゲーム性」の本質
渡辺 修司、中村 彰憲 著



【著者】渡辺 修司(わたなべ しゅうじ)
2007年より大学の教鞭をとり、2010年度より正式に立命館大学映像学部准教授に専任。現職 日本デジタルゲーム学会研究委員、立命館大学ゲーム研究センター運営委員。1997 年 「FinalFantasy7 international」(株式会社スクウェア) でゲーム業界に参加後、多数の会社で企画・監督職として参加。代表作は、2008年「internet Adventure」(株式会社セガ) 原案・企画監修。2004年 エンターブレイン主催 第1回ゲーム甲子園 大賞受賞 「みんなの城」個人作品、2003年 メディア芸術祭審査員推薦作品 「ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国」(株式会社タイトー 2003年)、原案・監督職

【著者】中村彰憲(なかむら あきのり)
立命館大学映像学部教授、日本デジタルゲーム学会副会長、立命館ゲーム研究センター運営委員。名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程後期修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、立命館大学政策科学部助教授を経て現職。東京ゲームショウアジアビジネスフォーラムアドバイザー(2010ー2011)、太秦戦国祭り実行委員会委員長(2009-2012)などを歴任。主な著書に、「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ、アジア市場を担当)、「ファミコンとその時代」(NTT出版、上村雅之氏、細井浩一氏と共著)、「テンセント VS. Facebook」、「グローバルゲームビジネス徹底研究」、「中国ゲームビジネス徹底研究」シリーズ(全てエンターブレイン)など多数。「ファミ通ゲーム白書」においては創刊以来、一貫して中国及び新興市場を担当する。最近は、GPS機能を活用したゲーム的アプリ開発のプロジェクトにも参画し、GDC2012でも講演。博士(学術)。
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