カルチャー
2014年8月26日
不摂生でもなぜか「健康な人」の習慣
[連載] 「いい人」をやめると病気にならない【3】
文・帯津良一
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「ときめき」で免疫力や自然治癒力が高まる!


 養生のなかで一番の重要なのは「ときめき」だと考えています。どんなにいいとされている養生でも、このときめきがなければ意味がありません。

 ときめきは命のエネルギーの上昇を促す「小爆発」で、ときめくたびに命のエネルギーが一気に上がります。この命の小爆発は、心と身体の問題を考え続けたフランスの哲学者、アンリ・ベルクソンが提唱した「生命の躍動(エランヴィタール)」に通じるものがある、と言えます。

 うれしかったり、楽しかったり、幸せを感じたりすると、免疫力が高まるのは、このときめきのためです。ときめきとともに自然治癒力も高まっていくため、健康にとてもいいのです。
 ときめいている状態であれば、少々寝不足だったり、疲労が重なっていたりしても、体調を崩すことはありません。

 このように、ときめきによって免疫力や自然治癒力を高めることを、私は「攻めの養生」と呼んでいます。

 ちょいワルで不摂生の人は結構いるのに健康な人が多いのは、ときめくことが多いため、結果的に攻めの養生につながっているからです。

ときめきを伴う「攻めの養生」が欠かせない!


 一方、いい人ほど、身体だけの養生によって病気を未然に防ぎ、天寿を全うしようとしますが、これでは「守りの養生」にすぎません。ときめきがないため、まじめに養生していても、病気がちだったり、大病を患ったりするのです。
 これでは治療の効果も上がりません。禁欲的な守りの養生がときめかないだけでなく、つらいのは実践している人なら、だれもが知っているはずです。

 たとえば、食にしても、身体に悪いからといって肉を一切摂らず、玄米菜食ばかり摂っていてはときめきません。たまに極上の肉を食べて、ときめくほうがいいのです。

 どんなときにときめくかは、人によってさまざまですが、自分の好きなことをすればいいでしょう。私の場合は、もっぱら酒と食がときめきの原動力です。毎朝、気功も楽しくやっています。

 養生法を聞かれるたびに、江戸時代の俳人、山口素堂の「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」をもじり、「目には青葉 朝の気功に夜の酒 あとはぽっくり いずれまた」と答えています。気功を楽しみ、好きな酒と食べ物に心をときめかせ、ぽっくり逝けたら、私にとってこんな大往生なことはありません。

 といっても、好きな酒と食を暴飲暴食するわけではありません。ほどほどにときめきながらいただくのです。
 このように、ときめきを伴う「攻めの養生」こそが、現代人にとって必要不可欠なのです。

ときめきの達人! 貝原益軒に学ぶ「攻めの養生」


 かなり前から、私は貝原益軒の人となりに注目し、『養生訓』を何度も読み返しています。これは益軒がときめきの達人で、『養生訓』から攻めの養生を学ぶことができるからです。益軒は、心をときめかせるスイッチをいくつか持ち、生涯ときめきの人生を送りました。

 一生のうちに『君子訓』『大和俗訓』『和俗童子訓』『家道訓』『養生訓』『文武訓』など、約250巻もの本を書き、そのほとんどが50歳を過ぎてからのもので、84歳で亡くなる直前まで執筆に明け暮れていたのです。

 当時(江戸中期)の日本人の平均寿命が40歳前後と言われていたことから考えても、この業績がいかにすごいかが理解していただけると思います。
 儒学、医学、地理学、農学などの本職寄りのものから、音楽、武道、易学など傍系のものまで興味の対象は広く、その知識は、ドイツの医者・博物学者として著名なシーボルトから「日本のアリストテレス」と言われたくらいでした。

 さらに益軒は、驚くほど旅行もしています。有能な官吏でもあった益軒が、藩主のお供として諸国を訪ねたのは想像できますが、それでも現在の福岡から江戸へ12回、京都へ24回も行っているのです。今のように飛行機や電車がない時代で、船を利用したとしても、かなりの健脚だったのは間違いありません。

 この貪欲なまでの探究心、好奇心が攻めの養生となり、生涯ときめくことができたのでしょう。益軒ほどのときめきの達人になれなくとも、健康で長生きでいるためにはときめきが欠かせない、ということが理解していただけたかと思います。

(第3回・了)





「いい人」をやめると病気にならない
帯津良一 著



【著者】帯津良一(おびつりょういち)
1936年埼玉県生まれ。医学博士。1961年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部第三外科、共立蒲原総合病院外科、都立駒込病院外科医長などを経て、1982年、埼玉県川越市に帯津三敬病院を開設、院長となる。現在、同病院名誉院長、帯津三敬塾クリニック主宰。人間を「有機的総合体」と捉え、西洋医学のみならず伝統医学・民間療法等を体系的に組み合わせて患者自身の自然治癒力を引き出す、「ホリスティック医学」を実践する。全国での講演回数も多く、「長生きにはトキメキが大事」と心・食・気の養生を勧め、聴衆の人気を博している。 現在、日本ホリスティック医学協会理事長、日本ホメオパシー医学会理事長、埼玉大学講師、上海中医薬大学客員教授なども務める。著書に『長生きしたければ朝3時に起きなさい』(海竜社)、『ホリスティック医学入門』(角川oneテーマ21)、共著に『なぜ「粗食」が体にいいのか』(幕内秀夫との共著、三笠書房)、『健康問答』(五木寛之との共著、平凡社)など多数ある。近著は『人生に必要なものは、実は驚くほど少ない』(共著:やましたひでこ、集英社)、『「いい人」をやめると病気にならない』(SB新書)。
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