カルチャー
2015年3月18日
「虫食いは無農薬の証!」だから「美味しい」はウソ
[連載]
有機野菜はウソをつく【2】
文・齋藤訓之
「堆肥を使ってつくっている」は好印象を与えがちだが......
農家が畑に窒素を多めに入れてしまいがちになる理由の1つに、「土作りのために堆肥を使う」というものがあります。一口に堆肥と言っても、作り方も出来上がるものの成分や性質はさまざまです。しかし、「堆肥を使っている」の一言が、バイヤーや消費者に対して一瞬で好印象を与えることが多いものです。
また、農家自身も、どんな堆肥であるかよく考えず、「入れてよかったからまた使っている」ということもよくあります。実際、それが作物に対して本当によいことであったのか、それとも単に害が出なかっただけのことなのか、すべての農家がそれを検証しているとは言えません。
堆肥と言った場合に共通するのは、何かを積み上げておいて醗酵させて作るということです。その何かには、籾もみ殻がらや稲藁や、野菜を収穫したときに葉菜の鬼葉(キャベツなどのいちばん外側の葉)や茎や根菜の葉などを切り落とした調製残渣などがあります。また、畜産廃棄物と総称しますが、家畜糞尿や敷藁も堆肥の材料になります。
その他に、ビール工場から出るビール粕、缶コーヒー工場から出るコーヒー粕、水産加工や出汁などの工場から出る魚粕や海藻などの出汁がら、最近ではスーパーマーケット、コンビニエンスストア、外食チェーンなどから出る生ゴミや食品残渣などもあります。そういうもので、入手しやすいものを選んで、ある程度の高さの壁で囲い、屋根なども付けた堆肥舎という施設の中に積み上げるのです。
この組み合わせの基本としては、主に植物由来のものは炭素成分ととらえ、動物由来のものは窒素成分ととらえます。炭素成分だけではうまく醗酵しないので、適量の窒素成分を混ぜるというのが、一つの考え方です。これに、ある種のバクテリア等、菌体資材というものを加えることもあります。
そうしておくと、そのゴミの山が醗酵を始めます。醗酵熱と言って、摂氏70~80度とか摂氏100度を超えるような熱を持ちます。これで有害な病原菌を殺すことを狙います。
また、畑から持ち込んだものや、家畜糞尿には雑草や作物の生きた種子が残っていることがあります。これらはこの醗酵熱で死滅すると言われるものですが、しぶとく生き残るものも多く、農家の悩みの種となります。
堆肥使用圧力と「堆肥ならば何でもいいだろう」という罠
そうして、ある程度の段階で運び出して畑に投入するわけです。
産業廃棄物、つまりゴミであったものを肥料として有効に活用するわけですから、概して経済的であり、環境配慮の意味でもよいことには違いありません。
しかも、これには「堆肥利用圧力」とでもいうべきものがあったのです。2000年の有機JAS制定とほぼ同時期という絶妙のタイミングで、家畜排せつ物法(1999年)と食品リサイクル法(2000年)が制定されました。前者は「畜産業における家畜排せつ物の管理の適正化を図るための措置及び利用を促進する」というもの、後者は「食品廃棄物等の発生抑制に優先的に取り組み、次いで食品循環資源の再生利用および熱回収、ならびに食品廃棄物等の減量に取り組む」というもので、ともに耕種農家(田畑で作物を栽培するタイプの農業を営む農家)がこれらを引き取って利用することが想定、推奨されているものです。
日本列島には、日々、食品や家畜飼料という形で膨大な量の窒素成分が海外から運び込まれていて、それは最初から肥料として輸入される量を遥かに上回ります。そういうものを、食べたり家畜の餌にするだけでなく、残ったもの、変化したものも未利用の窒素資源として活用するというアイデアは、社会的コストを減らす意味でもたいへんけっこうなことです。
ただ、それらで堆肥を作る場合、その材料と、醗酵の「ある程度の段階」というのがどの程度の段階かで、土への影響、作物への影響、環境への影響が変わってくるのですが、バイヤーや消費者だけでなく、農家にも「堆肥は堆肥」程度にしかとらえていない人がいることが、問題なのです。
(了)
齋藤訓之(さいとうさとし)
1964年北海道生まれ。中央大学文学部卒業。市場調査会社勤務、「月刊食堂」(柴田書店)編集者、「日経レストラン」(日経BP社)記者、日経BPコンサルティング「ブランド・ジャパン」プロジェクト責任者、「農業経営者」(農業技術通信社)取締役副編集長兼出版部長を経て独立。2010年株式会社香雪社を設立。農業・食品・外食にたずさわるプロ向けのWebサイト「Food Watch Japan」( http://www.foodwatch.jp/ )編集長。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。著書に『農業成功マニュアル「農家になる!」夢を現実に』(翔泳社)、『食品業界のしくみ』(ナツメ社)、共著に『創発する営業』(上原征彦編、丸善出版)ほか。
1964年北海道生まれ。中央大学文学部卒業。市場調査会社勤務、「月刊食堂」(柴田書店)編集者、「日経レストラン」(日経BP社)記者、日経BPコンサルティング「ブランド・ジャパン」プロジェクト責任者、「農業経営者」(農業技術通信社)取締役副編集長兼出版部長を経て独立。2010年株式会社香雪社を設立。農業・食品・外食にたずさわるプロ向けのWebサイト「Food Watch Japan」( http://www.foodwatch.jp/ )編集長。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。著書に『農業成功マニュアル「農家になる!」夢を現実に』(翔泳社)、『食品業界のしくみ』(ナツメ社)、共著に『創発する営業』(上原征彦編、丸善出版)ほか。