カルチャー
2015年3月25日
有機にこだわり過ぎた「残念な野菜」
[連載]
有機野菜はウソをつく【3】
文・齋藤訓之
「完熟堆肥」と「未熟堆肥」、どこがどう違うのか
前回の堆肥のお話の続きです。積み上げた堆肥は、一般に醗酵が進むに従って窒素や二酸化炭素が空気中に放出され醗酵熱によって水分も飛んで乾燥していきます。それで、「完熟堆肥」と呼ばれるものは、もうこれ以上は微生物が働けないというところまで醗酵を進めたもので、窒素成分が少なく、分解しにくい有機化合物と無機成分が主体の資材になります。
逆に「未熟堆肥」と呼ばれるものは窒素成分が多く、有機化合物もたっぷり含んでいます。堆肥に期待するものが、土の腐植を増やし、無機成分を供給するということであれば、完熟堆肥か、それになる寸前のまだ各種の微生物が生きている「中熟堆肥」を使うようにします。これは深く鋤き込んでも害が少ないと言われています。
また、水分が飛んでいるのでパラパラ、サラサラとしていて取り扱いや散布がしやすいという特徴があります。
一方、未熟堆肥やそれに近い状態のものは窒素成分が多いので窒素肥料として使えそうですが、有機化合物つまり微生物がこれから分解しようとしている炭素成分も多く含んでいるため、これを畑に入れると微生物が周りにある窒素を奪ってしまい、一時的に「窒素飢餓」という現象を起こしやすく、またその醗酵で出るガスが作物の根を傷めることがあります。
ただ、これは作付の何カ月か前に畑に鋤き込んでおいて、土ごと醗酵させるという使い方をすると腐植と生物を増やし、肥料の持ちをよくするという効果を狙うことができます。
また、チャ(茶の木)の栽培などでは、作物が植わっている間に裸で撒いていく「堆肥マルチ」という使い方もします。これは窒素供給と畑の保湿を狙うものです。保湿を狙うほどですから、しっとりと湿っていたり、場合によってはやや泥に近いようなものもあります。家畜糞尿や魚粕由来のものなどは、臭いもきついもので、これが周辺住民からのクレームということにもなり得ます。
「畑はゴミ捨て場じゃない!」と怒る農家がいる理由
また、未熟堆肥というものは、各種の微生物がまだ生きている状態で概して不衛生なものです。そういうものを食べ物の生産現場に持ち込むことは果たして安全なことかどうか、意外と見過ごされている視点です。また、材料に由来する作物や雑草の種子がまだ生きていて、栽培中に雑草(作物の種子でも栽培している作物以外の種子が発芽すれば雑草です)に悩まされるということもよくあることです。
農家にとっては、堆肥に期待する効果によって適正な材料で適正な醗酵段階に至っていてほしいのですが、廃棄物を出す側では出るものは何でもどんどん使ってもらいたい。そこで時間差を生じれば、醗酵が十分でなくても使わざるを得ないといった場面を生じることがないとは言えません。
そこで、気骨のある農家は「畑はゴミ捨て場じゃない!」と怒鳴ることもあるわけです。
堆肥も入れ過ぎが問題になっている
ここで問題となるのは、入れ過ぎることです。堆肥やボカシは、化学肥料と違って"効く"までに時間を要します。化学肥料は速効性、堆肥やボカシは遅効性などと言います。それで、余計に入れたほうが効くだろうとか、効くまでに失われる分があるから余計に入れようとかと考えてしまいがちです。
また、未熟堆肥を早くから畑に鋤き込んだ場合、土の中で醗酵が進んで現れた窒素成分は空中に飛ぶ分もあるでしょうけれども、やはり硝酸態窒素として流亡し、地下水、河川、海洋に出て行くことも見通しておくべきです。
そして、堆肥の最も厄介な点は、それが単肥ではなく、いろいろなものが入っているものだということです。正確な営農を心がけている農家であれば、農業試験場や研究機関などに依頼してその成分を調べ、栽培のどの段階で何を狙うのに使うかを検討するでしょう。
ただし、それには時間とお金もかかるものです。調べるコストは排出者や行政に持ってもらうという手もありますが、その交渉や手続きを惜しんで、まずは使ってみて考えようということも多い。害が出なければ使うということになりますが、本当に最高の状態で使えているかどうかは、優れた観察眼のある農家でなければなかなか判断がつかないでしょう。
齋藤訓之(さいとうさとし)
1964年北海道生まれ。中央大学文学部卒業。市場調査会社勤務、「月刊食堂」(柴田書店)編集者、「日経レストラン」(日経BP社)記者、日経BPコンサルティング「ブランド・ジャパン」プロジェクト責任者、「農業経営者」(農業技術通信社)取締役副編集長兼出版部長を経て独立。2010年株式会社香雪社を設立。農業・食品・外食にたずさわるプロ向けのWebサイト「Food Watch Japan」( http://www.foodwatch.jp/ )編集長。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。著書に『農業成功マニュアル「農家になる!」夢を現実に』(翔泳社)、『食品業界のしくみ』(ナツメ社)、共著に『創発する営業』(上原征彦編、丸善出版)ほか。
1964年北海道生まれ。中央大学文学部卒業。市場調査会社勤務、「月刊食堂」(柴田書店)編集者、「日経レストラン」(日経BP社)記者、日経BPコンサルティング「ブランド・ジャパン」プロジェクト責任者、「農業経営者」(農業技術通信社)取締役副編集長兼出版部長を経て独立。2010年株式会社香雪社を設立。農業・食品・外食にたずさわるプロ向けのWebサイト「Food Watch Japan」( http://www.foodwatch.jp/ )編集長。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。著書に『農業成功マニュアル「農家になる!」夢を現実に』(翔泳社)、『食品業界のしくみ』(ナツメ社)、共著に『創発する営業』(上原征彦編、丸善出版)ほか。