カルチャー
2015年4月8日
食べ物の原材料表示、あなたが納得する表示方法はどれ?
[連載]
有機野菜はウソをつく【5】
文・齋藤訓之
農産物も商品である以上、イメージは大切
かつて、食料供給が不足していた時代には、とにかく空腹が満たされることが第一でした。しかし、今日の私たちが食品に求めることは、よりおいしいものであること、体によいものであることでしょう。
体によいというのは、昔と違ってカロリーは控えめで、一方ミネラルやビタミンが十分含まれていて、できれば何か病気や病気の元を抑える機能性がある。一方健康を害する毒性が低く安全で、安心して食べられるということだと思われます。
そしてもう一つありますね。他の分野の商品に求めるのと同じく、環境破壊につながらず、むしろ環境をよくするような形で生産されていてほしい。
まとめて言えば、おいしくて、体によくて、安全で、環境によい──そういうことになります。
これは、有機農作物によく使われる謳い文句ですが、有機農業だから担保されるわけではありません。有機農業だけが優れた農業の方法なのではなく、優れた農業と言えるものにはさまざまな方法があり、その中に有機農業が含まれる場合もあるし、公的な認証を受けた有機農業でも、それに含まれない場合があるのです。
そのことについては、2月に刊行したSB新書『有機野菜はウソをつく』で、努めて自然科学的な視点から説明してますので、興味のある方は読んでいただけると幸いです。
もちろん、有機農業は非科学であるから、それを売り込んだり買い求めたりするのは誤りであるとか有害であるとか、今日にもそんな売り買いはやめるべきだとは言いません。
なぜなら、農産物も商品である以上、イメージは大切だからです。それは、「イメージのよい商品が売れる」という売る側の都合だけの話ではありません。買い手、食べる人の心の健康から言っても、商品を自然科学の視点からだけ論じたり、自然科学的に優良ないし無害と言えるものは何でも買うべきだと主張するのには問題があります。
お尻をのせてつぶしたあんぱんと「つぶしあんぱん」――どちらを食べたい?
ここで2つの思考実験をしてみましょう。
1つめは、あんぱんの食べ方の実験です。
高校生のときでしたが、友人が売店で買って来たあんぱんを座布団の下にしてペタンコに潰して食べていました。なぜそんなことをするのかと聞いてみたら、それがうまいのだと言い、そうして食べるファンはけっこういるよとも言います。
どうもあんこの甘味が強調されるのがよいようです。それにしても変なことを考えるものだといぶかっていましたら、それから数カ月もしない頃、大手製パン会社製の「つぶしあんぱん」というものを店頭で見かけました。それで、ファンはけっこういるというのは本当だったんだと納得しました。
そこで実験ですが、そのつぶしあんぱんを、学校の教室で2通りに作ってみることにします。一つは、友人がやっていたように、教室のみんなが使い慣れた椅子に座布団をのせて、その下に買ってきたあんぱんを滑り込ませ、その座布団の上に尻をのせて座ってつぶす方法です。座るのはとくに美人でもイケメンでもないあなたの友人ということにします。
もう一つの方法は、同じく買ってきたあんぱんを教室の机の上に置き、その上に新調したばかりの座布団をのせて、さらにその上に分厚い本と漬け物石などをのせて、あなたの友人が座ったときと同じ重量をかけることにします。
この両方とも、袋に入ったままのあんぱんの清潔さは保たれ、つぶし具合も同等になったとします。このどちらかをあげますから、欲しい方を指さしてくださいと人気投票をすると、どちらに軍配が上がるでしょうか。
おそらく、お尻をのせなかったほうを選ぶ人が大半でしょう。なぜなら、そちらのほうがイメージがよいからです。お尻が食品に直接くっついて衛生上の問題を生ずることがなかったとしても、やはりお尻が近づいた食べ物は選びたくない。
あんぱんの上にお尻をのせるというのは、不潔をイメージするかどうかということのほかに、食べ物の準備の仕方として間違っている印象を与えるから。そういうことではないでしょうか。
それなのに、「科学的に問題ないんだから、これを食え」と、お尻をのせたほうを誰かに無理に薦めると、喧嘩になるかもしれませんし、いじめではないかということになるかもしれません。
齋藤訓之(さいとうさとし)
1964年北海道生まれ。中央大学文学部卒業。市場調査会社勤務、「月刊食堂」(柴田書店)編集者、「日経レストラン」(日経BP社)記者、日経BPコンサルティング「ブランド・ジャパン」プロジェクト責任者、「農業経営者」(農業技術通信社)取締役副編集長兼出版部長を経て独立。2010年株式会社香雪社を設立。農業・食品・外食にたずさわるプロ向けのWebサイト「Food Watch Japan」( http://www.foodwatch.jp/ )編集長。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。著書に『農業成功マニュアル「農家になる!」夢を現実に』(翔泳社)、『食品業界のしくみ』(ナツメ社)、共著に『創発する営業』(上原征彦編、丸善出版)ほか。
1964年北海道生まれ。中央大学文学部卒業。市場調査会社勤務、「月刊食堂」(柴田書店)編集者、「日経レストラン」(日経BP社)記者、日経BPコンサルティング「ブランド・ジャパン」プロジェクト責任者、「農業経営者」(農業技術通信社)取締役副編集長兼出版部長を経て独立。2010年株式会社香雪社を設立。農業・食品・外食にたずさわるプロ向けのWebサイト「Food Watch Japan」( http://www.foodwatch.jp/ )編集長。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。著書に『農業成功マニュアル「農家になる!」夢を現実に』(翔泳社)、『食品業界のしくみ』(ナツメ社)、共著に『創発する営業』(上原征彦編、丸善出版)ほか。