カルチャー
2015年3月25日
有機にこだわり過ぎた「残念な野菜」
[連載] 有機野菜はウソをつく【3】
文・齋藤訓之
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有機にこだわらず上手につくったものと、有機でつくったが残念なもの


 しかし、有機栽培の経験の長い名人には、こうした資材を使っても、あたかも単肥を適時に与えていったように上手に栽培する人がいます。けれども、そうした名人とそうでない人を区別する機能は有機JAS規格にはありません。よいものを選ぶには、有機JASのシールがあるかどうかではなく、出来た作物そのもので判断するか、実際に生産者を訪ねてどんな営農をしているのかを見なければならないのです。

 実は私はこれほどひどい落花生は見たことがないというものにも出くわしたことがあります。ある有機農業実践家にお話を聞きに行った折にお茶請けに出してもらったものです。この有機農家の名誉のために言っておきますが、この人自身は非常に優れた腕前で、有機農業の技術体系もきちんと整理している人です。

 それで、その落花生ですが、これは千葉県の有機栽培でとてもがんばっている人が持って来てくれた作品だからと出してもらったのですが、テーブルに現れた瞬間目を疑いました。殻はどす黒く、さらに黒いしみがあちこちにあり、形はやせて貧弱な上に不自然に曲がったりくねったりしています。殻を割ると、やせ細った実が出てきました。味についてはもはや言いたくもありません。

 生産した畑の現場を実際に尋ねたわけではないので何とも言えませんが、おそらく土壌に病気が残っていて、養分の与え方も上手ではない人なのだろうと想像し、有機農業であることにこだわるより先に、取り組むべきことがあるのではないかなど思いながら、いちおう出していただいたものですから作り笑いで2~3はつまみました。

有機農業であるかどうか以前に、学ぶべき、押さえておくべきポイントがある


 有機農産物でありながら、内容のひどいものであったというものにはほかにも何度か出くわしています。

 ある外食企業が農業部門を持って有機栽培に取り組み、その社員さんたちと交流がありました。あるとき訪ねると、そのある社員さんが泣きそうな顔で近づいて来て言います。実はウチには技術と呼べるようなものはなく、各役員、各社員がそれぞれ自己流でやっているだけ。このままではウチは空中分解してしまう。どうしたものかと、悲痛な訴えです。とは言え、私が何か意見できる立場でもなく、そのときは彼らの悩みを聞くのに徹するしかありませんでした。

 それで、とにかくその惨状を知ってもらうために、お客さんに送っているのと同じ野菜の詰め合わせを一度送るので見てみてほしいと言います。数日後、それが届いたのですが、私は逆に驚きました。ハクサイやキャベツやニンジンなど、どれもなかなか立派です。色は濃すぎず浅すぎず、ニンジンの形もよいし、ハクサイはしっかり巻いていて全体の形もいいのです。「なんだがんばってるじゃないか」と思いながら、ダイコンを見て力が抜けました。形が悪い上に、表面に傷のようなシワがある部分がある。切ってみるとスが入っている。ほかにもいくつか、ちょっとこれはスーパーマーケットや八百屋さんの店頭には並べられないなというものが入っていました。

 しかし、いいものとだめなものが入っているのはなぜだろうと思いながら一つひとつについているラベルなどをよく見てみると、よいものは彼らに協力している地域の有機栽培の名人たちの作品だとわかりました。スの入ったダイコンほかが、彼らの作品だったわけです。

 彼らも、有機農業であるかどうか以前に、学ぶべきものがあったわけです。

 有機野菜の詰め合わせという形の販売形式はよくあるものですが、他社でもこのように玉石混淆だったり、中にはほとんど全部デタラメというものが届くケースが以前はよくありました。デタラメというのはどういうことかというと、その作物が健康に育った場合の本来の形状になっていないということです。

 有機農業であろうとそうでない農業であろうと、優れた生産を狙うための確固たるポイントがあるわけです。

(了)





有機野菜はウソをつく
齋藤訓之 著



齋藤訓之(さいとうさとし)
1964年北海道生まれ。中央大学文学部卒業。市場調査会社勤務、「月刊食堂」(柴田書店)編集者、「日経レストラン」(日経BP社)記者、日経BPコンサルティング「ブランド・ジャパン」プロジェクト責任者、「農業経営者」(農業技術通信社)取締役副編集長兼出版部長を経て独立。2010年株式会社香雪社を設立。農業・食品・外食にたずさわるプロ向けのWebサイト「Food Watch Japan」( http://www.foodwatch.jp/ )編集長。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。著書に『農業成功マニュアル「農家になる!」夢を現実に』(翔泳社)、『食品業界のしくみ』(ナツメ社)、共著に『創発する営業』(上原征彦編、丸善出版)ほか。
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