カルチャー
2016年3月11日
【プロが教える野球観戦術】エラーを「成功プレー」で上書きするのも"見えないファインプレー"
[連載] プロ野球 見えないファインプレー論【3】
聞き手・SBCr Online編集部
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「失敗」は「成功」で上書きする


 特にアマチュアの選手に言えることなのですが、練習をしていて失敗をすると大きな声で監督から怒鳴られたりします。ノックでエラーをして怒られ、ファーストへ暴投して怒られ、段々萎縮してしまう。そんなことを繰り返しているうちに、頭の中を支配し始めるのは「次こそは絶対失敗しないように...」という発想。実はこれが諸悪の根源です。

「失敗しないように」ではなく「成功させよう」という考え方を持つべきであり、常にアグレッシブに練習に取り組むことが、上手くなるためには何よりも重要です。
 いくら練習で表面的には失敗をしなくても、それは必ずしも実力が向上したとは言えません。たまたま体でボールを止めただけだったり、イメージどおりに捕れなくてきれいに流れが作れなかったり、あるいは握り損ねたものの、運よく送球が暴投にならなかったり、ワンバウンドをファーストが上手く捕ってくれたり。「結果さえよければ」という考えで練習を繰り返せば、上手くなることはありません。

 ゴロをさばいてから送球するまでは、動きの一つひとつが繋がって流れを作るのが理想ですが、「絶対エラーをしないように」とだけ考えて捕りに行くと、「捕球するだけ」あるいは「結果的に投げられたらいい」という具合に、動作が一連でなく、流れを欠いた動きになってしまいます。これでは結果的に「エラー」になっていないだけで、守備が上手くなったことにはなりません。基本的な狙いを持ち、またそれに沿った型を持っていなければ成長は難しく、試合で戸惑うことは目に見えています。

 飛んでくる打球に対し、「失敗しないためにどうするか」ではなく、「どうしたら早く送球出来るか」「どうしたら成功するか」という考え方を持つことが必要です。
 それでも、プロ野球選手でもミスと無縁でいることは出来ません。3割打者と言えども7割は打ち損じているわけですから、野球というのはミスが多い競技と言えます。

 どんなにいい選手でも三振はしますし、守っていればエラーもします。走塁ミスで、取れるはずの点が取れなかったというケースもあります。バントをミスすることもありますし、盗塁したらアウトになってしまうこともあります。

 試合でミスをしたときに、はたして翌日の試合に向けて、どんな心の対処が出来るか。これも、試合に臨むうえでの「準備」の一つと言えるかもしれません。

「さっさと忘れて気持ちを切り替えよう!」
「くよくよ考えたって仕方ないだろ!」
 そう楽観的に考える人もいるかもしれません。実際、そのやり方で解決するケースもあるとは思いますし、それが間違いだというわけではないのですが、個人的な考えでは、ミスはあくまで〝成功プレー〟で上書きするしかないと思っています。

 気分転換でパーっと飲みに行き、仲間に慰めてもらって、いい感じで忘れたつもりになったとしても、一人になって寝るときに思い出したりするものです。一番悪いのは、そのミスを引きずって、翌日の試合でまたミスをしてしまうこと。実際、プロでもそういうことはままあります。

 ミスをしたという事実は永久に残りますが、選手たちは毎日少しずつ〝信用貯金〟をしています。ミスというのは、その貯金をその日少しだけ使ったということ。言い換えれば、失った分をまた少しずつ取り戻せばいいのです。






プロ野球 見えないファインプレー論
仁志敏久 著



仁志 敏久(にしとしひさ)
1971年茨城県生まれ。常総学院高校では準優勝1回を含む甲子園3度出場。早稲田大学では主将としてチームを牽引し、主に遊撃手として活躍。日本生命を経て、1995年にドラフト2位で読売ジャイアンツに入団。1996年に新人王をはじめ、ゴールデングラブ賞を4回獲得するなど、二塁手レギュラーとして活躍。2007年に横浜ベイスターズ(現、DeNAベイスターズ)へ移籍。2010年に米独立リーグ・ランカスターへ移籍、同年引退。現在は、野球評論家として「すぽると」をはじめテレビ、ラジオでの解説、雑誌等での寄稿を行う。また、指導者としてジュニア世代育成、講演会などを積極的に行う。2014年8月にU12全日本代表監督に就任。2015年7月には第1回WBSCプレミア12の日本代表内野守備・走塁コーチに就任。著書に『プロフェッショナル』(祥伝社)、『反骨』(双葉社)など多数。
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