カルチャー
2016年3月11日
【プロが教える野球観戦術】エラーを「成功プレー」で上書きするのも"見えないファインプレー"
[連載] プロ野球 見えないファインプレー論【3】
聞き手・SBCr Online編集部
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サヨナラエラーが守備意識を高めるきっかけとなった


 私もプロに入る前は、高校野球、大学野球、社会人野球を経験していますので、ミスで試合を落としたら、そこですべてが終わってしまう残酷さも知っているつもりです。ただ、プロはミスをして負けても、翌日当たり前のようにまた試合をしなければなりません。ある意味、これもまた実に残酷なことです。

 例えば、私はルーキーだった1996年6月の阪神戦で、延長戦に久慈照嘉選手が打ったサードゴロをトンネルし、これがサヨナラエラーになってしまった経験があります。当時の長嶋監督からは「気にするな。明日からまた頑張ればいい」と慰めていただいたのですが、なんと次の試合でもエラーをしてしまい、自分自身の不甲斐なさを痛感しました。

 チームには本当に迷惑をかけてしまいましたが、私自身の野球人生の中で、守備に対する考え方を大きく変えた出来事だったとも言えます。プロとして、ミスのショックを乗り越えて試合をやり続けるには、強い気持ちと高い志を持ち、それを超えるいいプレーをして、勝利に貢献して信頼を得るしかありません。

 また、これは野球に限らない話ですが、失敗を忘れては失敗から学ぶことは出来ません。引きずってもダメですが、忘れてもいけないのです。ですから、翌日の試合の準備という意味で言えば、「前日の失敗を忘れない」ことも大事なことです。

 そもそも、野球におけるミスとは、どんなものを指すのか。先ほども述べたとおり、いいバッターと言っても打率は3割程度。打数500回のうち350回ミスしても、150回成功すれば「3割打者」として評価されます。

 ど真ん中に放られて思わず見送ってしまったり、絶好球を力んで引っかけ、内野ゴロにしてしまったりしたら、それは厳密にはミスと言えるかもしれません。しかし、それは打てなかった事実としての個人の中でのミスであり、直接的に勝敗に絡んでこなければ「おまえのミスだ!」とチームから批判されることはまずありません。なにしろ、誰だって最終的には500回のうち350回はミスをするわけです。

 さらに言えば、ゲームを左右するミスを犯したとしても、それがミスとは言えないケースもあります。例えばゴロを捕り損ねて相手チームに得点が入り、それにより負けたとしても、エラーの原因が打球のイレギュラーによるものだとしたら、どうでしょうか。  その事実を理解してくれる首脳陣がいる限り、それはあくまで記録上のエラーであり、事実上はその人のミスではないと考えることも出来ます。

 結局、やりようがあったのに出来なかったというのが、一般的に野球で言うところのミスであり、中でも試合の大きな流れや勝敗に関わるミスについては、忘れることなく肝に銘じ、原因を突き止め、次の出場機会に備えるということが、言わば「見えないファインプレー」と呼ぶことが出来るでしょう。

(了)





プロ野球 見えないファインプレー論
仁志敏久 著



仁志 敏久(にしとしひさ)
1971年茨城県生まれ。常総学院高校では準優勝1回を含む甲子園3度出場。早稲田大学では主将としてチームを牽引し、主に遊撃手として活躍。日本生命を経て、1995年にドラフト2位で読売ジャイアンツに入団。1996年に新人王をはじめ、ゴールデングラブ賞を4回獲得するなど、二塁手レギュラーとして活躍。2007年に横浜ベイスターズ(現、DeNAベイスターズ)へ移籍。2010年に米独立リーグ・ランカスターへ移籍、同年引退。現在は、野球評論家として「すぽると」をはじめテレビ、ラジオでの解説、雑誌等での寄稿を行う。また、指導者としてジュニア世代育成、講演会などを積極的に行う。2014年8月にU12全日本代表監督に就任。2015年7月には第1回WBSCプレミア12の日本代表内野守備・走塁コーチに就任。著書に『プロフェッショナル』(祥伝社)、『反骨』(双葉社)など多数。
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