カルチャー
2016年4月28日
新しい働き方の最重要キーワード「エイジフリー」とは?
[連載]
自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう【8】
定年制の廃止で労働の健全な流動化が進む
日米の「大学生の就職人気企業ランキング」にみる違い
出口 労働の流動化について持論を述べると、「セーフティネットがないのに解雇するのはよくない」と言われることがよくあります。でもニワトリ、タマゴ論争は常にそうですが、まず先に労働の流動化だと思うのです。なぜかというと、供給が増えれば、それに応じて需要、即ちマーケットが生まれてくるからです。
島澤 解雇を含めた労働の流動化が日本で上手くいかないのは、中途採用の市場が闊達でないからです。さらにいえば、「解雇」という言葉に抵抗があるのかもしれません。
そういえば、役所の1年生の頃、景気判断を行う部署にいたのですが、旧労働省から出向されていた上司に、景気判断の報告書に労働需給が云々とあるのを見て、烈火のごとく怒り出した大臣がいると伺ったことがあります。その理由は「需給とは何だ! 人を物扱いするな!」ということで、それはそれでうなづける気もするのですが、それと同じメンタリティーかもしれません。解雇という言葉には、どうしてもマイナスな印象は拭えませんからね。
まずは大企業が率先して労働の流動化をはかり、大企業であふれた人が中小企業や人手不足な業界に入れば、日本経済の循環はさらによくなるはずです。ところが日本人は大企業にとどまりたがるので、なかなか上手くいかない。
出口 それはいわゆる「大企業病」ですね。アメリカと日本の就職希望企業のランキング(図参照)を見ると、それがより顕著に出ていると思います。
アメリカのランキングを見ると、金融機関はひとつもランクインしておらず、国際機関(国際連合)が1つ、公務員(国務省、FBI、CIA)が3つ、NPO団体が3つ、民間企業(ウォルト・ディズニー、グーグル、アップル)が3つと実によくバランスがとれています。また、大企業ではないベンチャー企業に進む若者も多い。アメリカにはベンチャーマインドの文化が根付いているので、起業者に出資する人もたくさんいます。対GDP比で見たベンチャーキャピタル投資額(OECD調べ)を見ると、アメリカはイスラエルに次いで第2位となっています。
一方、日本のランキングは大銀行と大保険会社が上位を占めており、ほかにも大商社や大メーカー、大インフラ企業など、誰もが知っている大手企業に人気が集中しています。
島澤 雑誌などで「大学生の就職人気企業ランキング」が発表されますが、こういうものに影響を受けすぎていますね。
出口 日本の学生は、今がピークの超大企業にしか目がいっていないのです。日本の労働生産性を押し上げようとすれば、若くて優秀な人材が未来のソニーやホンダに入社すべきなのですが、それができていない。「保守的」「安定志向」の若者がじつに多いのです。しかし、だからといって若者だけを責めてはいけません。こうした気運をつくってしまったのは、僕たち大人だからです。
高度成長期からバブル期にかけては、「誰もが知っている名の知れた大企業に入り、終身雇用・年功序列で安定した収入を得て、定年後はローンを払い終えた一戸建て住宅で悠々自適の老後を過ごす」という成功モデルがありました。しかし、このモデルはすでに過去のものであり、幻想でしかありません。
出口治明(でぐち・はるあき)
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。日本興業銀行(出向)、生命保険協会財務企画専門委員会委員長(初代)、ロンドン事務所長、国際業務部長などを経て、2006年に日本生命保険相互会社を退職。東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを経て、現在、ライフネット生命保険株式会社・代表取締役会長兼CEO。
島澤諭(しまさわ・まなぶ)
東京大学経済学部卒業。1994年、経済企画庁(現内閣府)入庁。2001年内閣府退官。秋田大学教育文化学部准教授等を経て、2015年4月より中部圏社会経済研究所経済分析・応用チームリーダー。この間、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所客員研究員等を兼任。専門は世代間格差の政治経済学。
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。日本興業銀行(出向)、生命保険協会財務企画専門委員会委員長(初代)、ロンドン事務所長、国際業務部長などを経て、2006年に日本生命保険相互会社を退職。東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを経て、現在、ライフネット生命保険株式会社・代表取締役会長兼CEO。
島澤諭(しまさわ・まなぶ)
東京大学経済学部卒業。1994年、経済企画庁(現内閣府)入庁。2001年内閣府退官。秋田大学教育文化学部准教授等を経て、2015年4月より中部圏社会経済研究所経済分析・応用チームリーダー。この間、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所客員研究員等を兼任。専門は世代間格差の政治経済学。