カルチャー
2016年4月28日
新しい働き方の最重要キーワード「エイジフリー」とは?
[連載] 自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう【8】
定年制の廃止で労働の健全な流動化が進む
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時代にそぐわなくなっている「新卒一括採用システム」


島澤 就活解禁時期が毎年コロコロ変わって、学生も企業も混乱していますが、新卒一括採用というシステムは時代にそぐわなくなっていると思います。
 バブル崩壊後、企業はこぞって採用を抑制し、いわゆる「就職氷河期」に突入しました。この時期の学生は「ロスジェネ世代」と呼ばれ、なかには優秀なのに正社員になれずに苦しんでいるという人もいます。
 その一方で、採用が売り手市場になると、さほど優秀でない学生でも内定がポンポン出ます。それだったら景気が悪いときの優秀な若手を第二新卒や転職という形で採用したほうが、企業にとってもよいことだと思います。

出口 これも労働の流動化のひとつですね。ある雑誌で経団連の偉い方が「最近の若者は根性がない。せっかく入社しても3年で3割が辞めてしまう」と嘆いておられましたが、僕は同じ雑誌で「もっと辞めないといけない」と書きました(笑)。なぜなら就活時点で大企業に寄りすぎているのですから、わが国は新卒労働力の分配時の始めから歪んでいるのです。もはや終身雇用など過去の話ですから、これからは人材登用も社内外を問わず幅広く構えて、辞めたいときにはいつでも辞められる自由で流動的な労働環境をつくっていくことが理想だと考えています。

キャリアを捨てる、大企業を辞めるという勇気


出口 キャリアを捨てる、大企業を辞めるというのは、周囲から見れば「どうかしている」と思われがちですが、島澤先生の場合は親御さんなどから何か言われませんでしたか?

島澤 私は1994年に経済企画庁(現・内閣府)に入庁し、2011年12月に退官しています。元々は経済分析とか、そういう分野に興味があって、国のため、国民のために働ければいいかなと思って入りました。経済企画庁は経済だけをやっていればよかったのですが、省庁再編で内閣府となり、交通安全や叙勲などもやるようになりました。先を見ても自分が好きな経済分析ができるかどうかわからなかったので、辞めて経済分析ができる道を選びました。
 辞めるときは親には「お前が決めたことだから」と言われただけですし、妻にも何も言われませんでした。ただ当時は2人の幼子を抱えていきなり無職になったわけですから、妻には本当に感謝しています。でも中には、官庁を辞めて外の世界に出たいけれど、家族の反対で断念したという人も少なくないようです。

出口 以前に奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)に講演に行ったとき、とても優秀な学生と出会ったことがあります。終了後の飲み会の席で出会ったのですが、あまりにもいろいろなことをよく知っているので「入学前は何をしていたの?」と訊いたところ、彼はこう答えました。
 「霞が関で3年ほど働いていましたが、上司に言われたとおりに法律案をつくる日々に疑問がわいてきて、自分がやりたいことをもう一度考えた末に、特許権の勉強をするためにNAISTへ入りました」
 彼は一流大学を卒業したキャリア官僚でしたが、「やりたいこと」をやるためにそのキャリアを捨てたのです。

島澤 辞めるときは大変だったのでは?

出口 もうメチャクチャだったようです。上司は1~2カ月で説得できたけれど、ご両親や親戚が「せっかく一流官庁に入ったのに、何で山奥の大学に入るんだ」とこぞって反対し、結局、辞めるのに1年かかったそうです。
 彼の場合は強い意志をもって仕事を辞めましたが、なかには不安になって断念し、やりたくない仕事を嫌々続けるという人も少なくありません。でも身近に大きい組織を辞めても成功した人(ロールモデル)がいれば、「自分にもできるはず」となり、思い切って辞めやすくなるのではないでしょうか。

島澤 私も役所を辞めたあと、先輩や後輩から「自分も辞めたいと思っている」と相談されることがあります。役所を辞めたい人にとっては、こんな私でもロールモデルのひとつに見えるのかもしれません。

(了)
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自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう会議
出口治明・島澤諭 著



出口治明(でぐち・はるあき)
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。日本興業銀行(出向)、生命保険協会財務企画専門委員会委員長(初代)、ロンドン事務所長、国際業務部長などを経て、2006年に日本生命保険相互会社を退職。東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを経て、現在、ライフネット生命保険株式会社・代表取締役会長兼CEO。

島澤諭(しまさわ・まなぶ)
東京大学経済学部卒業。1994年、経済企画庁(現内閣府)入庁。2001年内閣府退官。秋田大学教育文化学部准教授等を経て、2015年4月より中部圏社会経済研究所経済分析・応用チームリーダー。この間、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所客員研究員等を兼任。専門は世代間格差の政治経済学。
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