スキルアップ
2014年8月6日
漢字「通」なら答えられて当たり前!? 動物を使った四字熟語クイズ
[連載] 読むだけで人間力が磨かれる、大人の漢文【番外編】
監修・田部井文雄
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Question2 「暴_馮河」(難易度 中)


Answer

 下線部に入る動物の漢字は、「虎」。全体で「ぼうこひょうが」と読みます。「暴虎」とは、暴れるトラではなくて、ここでは、トラに素手で打ちかかること。「馮」は川を歩いて渡ることを指す漢字。「河」は、中国の古典では、中国北部を流れる大河「黄河」を指してよく使われます。

 つまり、この四字熟語は、トラに素手で戦いを挑んだり、黄河を歩いて渡ろうとしたりという、無謀な勇気を表すことばなのです。

 紀元前5世紀ごろのこと、思想家として有名な孔子に、子路(しろ)という弟子がいました。彼は、冷静沈着な孔子とは対照的に、血気盛んで鉄砲玉のような性格でした。『論語』には、そんな子路をめぐる次のような話が記されています。

 子路が、あるとき、孔子に向かって次のように尋ねました。

 「先生が大軍を指揮なさるなら、誰と一緒になさいますか」

 もちろん、武勇に秀でた自分を選んでくれるだろう、と期待してのことです。ところが、孔子は「暴虎馮河し、死して悔い無き者は、吾(われ)は与(とも)にせざるなり」と答えたのです。トラに素手で戦いを挑んだり、黄河を歩いて渡ろうとしたりするような無謀な勇気をふるって、その結果、死んだって後悔しないような者とは、私は一緒に大軍を指揮したりはしないよ、というのです。

 孔子は続けて言います、「戦いをするなら、死んでも後悔しないような無謀な者ではなく、慎重に計画を練る者と一緒にするよ」と。深く考えないで実行に走ってしまうことが多い子路を、孔子はこう言ってたしなめたのでした。

 トラに素手で戦いを挑むとか、黄河を歩いて渡るとかいう、ほら話に近いくらいの極端なたとえが、秀逸ですね。孔子というと、いつも「道徳」を語るばかりの四角四面な人のような気がしますが、なかなか愉快な想像力の持ち主だったようです。

 仕事で何かを思いついてすぐに実行に移そう考えたときには、ちょっと立ち止まって、「暴虎馮河の勇を犯してはいないか」と自問してみることも必要でしょう。

Question3 「首_両端」(難易度 中)


 答えは次のページで





読むだけで人間力が磨かれる、大人の漢文
こんな場面で使いこなしたい!
田部井文雄 監修



【監修】田部井文雄(たべいふみお)
1929年生まれ。東京教育大学大学院修士課程修了。都留文科大学、千葉大学教授を経て、現在、湯島聖堂斯文会参与。『大漢和辞典』を初めとする漢和辞典、高校教科書などの編集に数多く携わり、NHKラジオ、テレビの放送なども担当。現在は、朝日カルチャーセンターや湯島聖堂斯文会などで、漢詩文に関する講義を行っている。主な著書に、『唐詩三百首詳解(上・下)』『中国自然詩の系譜』『四字熟語物語』(いずれも大修館書店)、『陶淵明集全釈』(共著、明治書院)、『漢文塾 漢字文化の魅力(上)』『漢詩塾 漢字文化の魅力(下)』(いずれも明治書院)など。また、『親子で楽しむこども論語塾』(明治書院)、『絵でみる論語』(日本能率協会マネジメントセンター)、『読むだけで人間力が磨かれる、大人の漢文』(SB新書)などの監修も務めている。
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