スキルアップ
2014年8月6日
漢字「通」なら答えられて当たり前!? 動物を使った四字熟語クイズ
[連載] 読むだけで人間力が磨かれる、大人の漢文【番外編】
監修・田部井文雄
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Question4 「風声_唳」(難易度 高)


Answer

 この下線部に入る動物の漢字は、「鶴」です。「唳」はちょっと見慣れない漢字ですが、音読みでは「れい」。鳥が鳴くことを表します。全体で「ふうせいかくれい」と読む四字熟語で、文字通りの意味としては、風の音や鳥の鳴き声ということです。

 この四字熟語は、中国の歴史書の1つ、『晋書(しんじょ)』の次のような話がもとになっています。

 西暦383年のこと、中国北部を支配していた前秦(ぜんしん)王朝が、大軍を率いて、南部の東晋(とうしん)王朝へと攻め込んできました。

 前秦は遊牧民族が主体で、戦争では無類の強さを発揮します。対する東晋は、伝統的な漢民族の王朝ですが、そもそも、遊牧民族に中国北部を奪われて、南部へと逃げ込んで来た、という歴史を持っています。

 前秦軍は、100万と号する大軍勢。迎え撃つ東晋の軍勢は、わずか7万。両軍は、淝水(ひすい)という川を挟んで対峙します。前秦の勝利は確実だと思われました。

 この劣勢にあって、東晋の将軍、謝玄(しゃげん)は冷静でした。前秦の大軍が寄せ集めに過ぎないことを見抜くや、まず前秦軍内にスパイを潜入させた上で、前秦の大将に向かって「こちらが川を渡ったところで対戦しよう」と提案します。この提案を受け入れた前秦軍は、軍勢を川岸から少し後退させ始めました。

 このとき、スパイが「負けだ、退却だ」と叫んだのです。寄せ集めで指揮系統が整っていない前秦の諸軍は、後退の動きを敗戦と勘違いしてしまい、それぞれ勝手に敗走し始めました。総崩れになった前秦軍は散々に打ち破られ、戦いは東晋軍の大勝利に終わったのでした。

 このとき、逃げて行く前秦軍は恐怖に駆られ、「風声鶴唳」を聞いても、東晋軍が迫って来る音だと勘違いしたといいます。そこから、この四字熟語は、ちょっとした物音にもびくびくすることのたとえとして使われるようになりました。

 現在では、何かを怖がっている人に対して、「風声鶴唳を気にするな」というふうに使うことができます。あまりよく知られた四字熟語ではありませんが、壮大な中国史のドラマが背景にあると知ると、味わい深いですよね。

 以上、『読むだけで人間力が磨かれる、大人の漢文』から、動物の漢字が含まれた四字熟語を紹介しました。中国の古典には、人生に役立つ味わい深い表現がたくさん含まれています。本書を読んで、大人の人間力を磨いてみませんか?

(了)
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読むだけで人間力が磨かれる、大人の漢文
こんな場面で使いこなしたい!
田部井文雄 監修



【監修】田部井文雄(たべいふみお)
1929年生まれ。東京教育大学大学院修士課程修了。都留文科大学、千葉大学教授を経て、現在、湯島聖堂斯文会参与。『大漢和辞典』を初めとする漢和辞典、高校教科書などの編集に数多く携わり、NHKラジオ、テレビの放送なども担当。現在は、朝日カルチャーセンターや湯島聖堂斯文会などで、漢詩文に関する講義を行っている。主な著書に、『唐詩三百首詳解(上・下)』『中国自然詩の系譜』『四字熟語物語』(いずれも大修館書店)、『陶淵明集全釈』(共著、明治書院)、『漢文塾 漢字文化の魅力(上)』『漢詩塾 漢字文化の魅力(下)』(いずれも明治書院)など。また、『親子で楽しむこども論語塾』(明治書院)、『絵でみる論語』(日本能率協会マネジメントセンター)、『読むだけで人間力が磨かれる、大人の漢文』(SB新書)などの監修も務めている。
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