カルチャー
2015年1月19日
「首」は現代日本人の不調の盲点だった!
[連載] 体の不調は「首こり」から治す、が正しい【2】
文・三井 弘
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つらい痛みと不調の原因は「首」


 肩こりがひどい、背中がこる・痛む、腰痛に悩まされている、頭痛がある......。
「こり」や「痛み」は、数ある体の不調の中で、現代人にとって最も身近な症状です。皆さんもきっと身に覚えがあることでしょう。

 私が専門としている整形外科の分野に、「△△がこる・痛い」と訴えて来られる患者さんたちの場合、「△△」の部分に入る部位は、肩・背中・膝・腰が圧倒的な割合を占めます。

 ところが最近、その訴えの裏側に、隠れた原因を抱えている方が大変に増えてきました。  隠れた原因とは何でしょうか?

 先に答えを言ってしまうと「首のトラブル」です。

 たとえば、ひどい肩こりと頭痛に耐え切れなくなり、駆け込むようにして私のところに来院された40歳の女性がいました。
 若い頃から肩こりに悩まされ、針治療やマッサージを繰り返し受けているのですが、なかなか改善されなかったそうです。
 結婚後は長らく専業主婦でしたが、お子さんが手を離れたことを機に事務職のパートを始めたところ、肩こりが悪化。ひどい頭痛にも苛まれるようになったということでした。

 合併症や既往症は特になく、右手にしびれ感が見られたものの、診察した限りでは神経学的な明らかな異常はありません。
 次にレントゲンを撮ってみると、原因が一発で判明しました。頸椎に骨棘(こつきょく)が認められたのです。

 頸椎とは首の骨、骨棘とは椎間板の周囲の骨がトゲのように変性した部分を言います。首の仕組みについてこの連載でまた説明しますが、この骨棘が肩の筋肉を司る「肩甲上神経」と呼ばれる神経根を圧迫し、肩こり、頭痛、しびれを引き起こしていたのです。

 この患者さんのように、しつこい肩こりや背中痛、頭痛の背景に、首の状態が関わっているケースは少なくありません。

 私は、整形外科医として40年近く患者さんたちを診てきましたが、ここ十数年で、なかなか改善されない肩・背中の重度のこりや痛み、手足のしびれ、頭痛、さらにはそれに付随して、脱力感や集中力の低下、抑うつ感といったものを訴えて来院される患者さんがかなり増えたことを実感しています。

 そうした症状と首は、実は深く関係しています。
 ところが多くの方が、自分の不調は「首」からきているとは思いもよらないのです。
 首は、いわば体の不調における盲点と言ってもよいでしょう。

万病は「首」からやってくる!


首こりは危険信号!
(c)山原恭子

「最近、特に肩こりがひどくなってきた気がする」
「首のあたりが常に重たい感じで、もんでもスッキリしない」
「頭痛もちで、ずっと頭痛に悩まされている」
「ときどき手先にしびれを感じるようになった」

 こうした自覚症状があっても、「単なる肩こりだし......」「頭痛もちだから仕方ない」「年だから起こるのだろう」などと軽く考えて、そのまま放置してしまう方は少なくありません。

 しかし、慢性的に症状が続いているようなら、「単なる」や「たかが」と考えてしまうことは危険です。
 というのも、その慢性症状は首からの「故障し始めているよ」のサインである可能性が高いからです。

 日常生活においてはほとんど意識されることのない部位ながら、首は脳と体をつなぐ重要な関所です。
 その関所である首のトラブルは、脳にも体にも影響し、全身的な症状の元ともなり得ます。

 原因が首であった場合、我慢し続けたり、マッサージや整体で一時しのぎをしたり、湿布薬などでごまかしたりしても、症状はよくなるどころかどんどん悪化していく一方でしょう。

 やがて日常生活に支障をきたすほどの痛みが起こったり、めまいや耳鳴りに悩まされたりするようになります。さらには重篤な首の疾患に進んだり、四肢の麻痺などにつながっていく危険性もあります。

 それだけではありません。首まわりのしつこいこりや痛みを引き起こしている真の原因に、がんやリウマチ、結核といった別の病気が隠れていることもあります。
 最悪の場合、症状を軽く考えて自己判断で対症療法を続け、命に関わる病気を見逃してしまったという、悔んでも悔やみきれない結果につながることもあるのです。

 ですから「たかが肩こり」「頭痛は持病」などと甘く考えないようにしましょう。
「なかなか症状が取れないなあ」「何をやってもラクにならない」
 そんなときは、自己流の対症療法に頼らず、ぜひ一度医師の元を訪ね、首の状態をチェックしてみることが大切です。

(第2回・了)





体の不調は「首こり」から治す、が正しい
三井 弘 著



三井 弘(みつい ひろし)
1943年、岡山県岡山市生まれ。1970年、東京大学医学部を卒業。同整形外科入局。1977年より三井記念病院勤務。1984年「三井式頚椎手術器具」を開発。三井記念病院整形外科医長を経て、現在、三井弘整形外科・リウマチクリニック院長。専門分野は脊椎、関節(人工関節)。日本リウマチ学会評議員。著書に『体の痛みの9割は首で治せる!』(角川SSC新書)、『首は健康ですか?』(岩波アクティブ新書)など多数。
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