カルチャー
2015年1月27日
世界で一番「首」が悪い日本人
[連載] 体の不調は「首こり」から治す、が正しい【5】
文・三井 弘
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日本人の首は欧米人と比べて弱い!

 
 ちょっと驚かれるかもしれませんが、日本は世界で一番首の悪い患者が多い国です。
 だからと言っていいと思いますが、世界で最も頸椎の学問が発達しており、首の手術などの治療技術も欧米諸国より進んでいます。

 では、どうして日本人は首の悪い人が多いのでしょうか。
 理由は欧米諸国の人の首と比べて、日本人の首が弱いためです。

 体格的に、日本人は欧米人と比べて小ぶりです。最近の若い人たちはそうでもない人が増えていますが、それでも平均的に欧米の人たちよりは小柄でしょう。
 ということは骨格も小ぶりで、頸椎といった首の骨も小さくなります。

 そもそもアジア人の首は、欧米人と比較して脊柱管が狭くできています。これも骨の大きさの違いから生じています。

 脊柱管とは神経の束である「脊髄」が入っている骨の管のこと。脊髄自体の太さは欧米人とそれほど変わらないのに、この入れ物が日本人の場合は狭いのです。
 例えると、大きなタンスが八畳に置かれているのが欧米人、四畳半に置かれている状態が日本人です。ですから当然、脊柱管の中のスペースに余裕がありません。

 首の老化や生活習慣の積み重ねなどで脊柱管に異常が起きると、中の脊髄が刺激を受けやすく、痛みやしびれといった不快な症状が起きやすくなるのです。

欧米人より首を悪くしやすい日本人の宿命


 また日本人は欧米人より首が短いことも、首の弱さの一因です。体のバランスからして、頭の大きさと首のサイズが合っていないのです。

 欧米人は頭が小さく首も長く、首の健康にとっては理想的なバランスです。
 対する日本人は首に比して頭が大きく、その分、重い頭を支えるために首に力がかかりやすくなってしまうのですね。

 食生活の違いも関係します。カルシウムやビタミンD、タンパク質などの摂取量が欧米と比べて少ないため、日本人で骨粗しょう症の人は多く、転倒などのちょっとしたアクシデントで首の骨を痛めてしまいやすい傾向があります。

 さらにつけ加えると、日本に多い和式の生活様式も首に負荷をかけやすいと言えます。現在は椅子とテーブルの西洋スタイルも増えてきてはいるものの、リビングやダイニング以外の部屋は畳やカーペットの上に座って過ごす、という家も少なくないでしょう。

 こうした和式スタイルでは、上を向いたり、下を向いたりといった動作が椅子の生活よりも格段に多くなります。特に下から見上げる動作は、振り仰ぐ角度も、振り仰ぐ頻度も椅子の生活より上回ります。
 生活様式においても、日本は、欧米と比べて首に負担がかかる割合が高いわけです。

 このように、日本人は欧米人よりも首を悪くしやすい要素が多いのです。
 生活様式に関しては、畳や床に座る生活から椅子に座る生活へ変えるといった環境改善ができますが、残念ながら骨格や体型は変えていくことはできません。

 それだけに、「私たち日本人は体の仕組みとして首を悪くしやすい民族である」ということを意識して、日頃から首を痛めない生活を心がけることが大切なのです。

(第5回・了)





体の不調は「首こり」から治す、が正しい
三井 弘 著



三井 弘(みつい ひろし)
1943年、岡山県岡山市生まれ。1970年、東京大学医学部を卒業。同整形外科入局。1977年より三井記念病院勤務。1984年「三井式頚椎手術器具」を開発。三井記念病院整形外科医長を経て、現在、三井弘整形外科・リウマチクリニック院長。専門分野は脊椎、関節(人工関節)。日本リウマチ学会評議員。著書に『体の痛みの9割は首で治せる!』(角川SSC新書)、『首は健康ですか?』(岩波アクティブ新書)など多数。
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