カルチャー
2015年1月30日
人間の体で最も無防備な場所が「首」
[連載]
体の不調は「首こり」から治す、が正しい【6】
文・三井 弘
「首」は弱くて無防備な場所だった
前に「首は文字通り、全身の〝ネック〟となる部分」と述べましたが、これは大げさでも何でもありません。
首には生命維持に必要な重要な器官が集まっており、万一ここを損傷すれば体の機能が麻痺してしまうような事態にもなりかねません。
ところが人体の中で、首ほど無防備な場所もないのです。
たとえば、首から下のボディの部分を考えてみてください。
心臓や肺といった臓器はろっ骨とそれを覆う筋肉に守られ、肝臓や腸なども腹筋や脂肪などで厚く保護されています。お尻や脚には強くて丈夫な骨とたくましい筋肉があります。
首から上の頭の部分も、人体の司令塔である脳は頭蓋骨で守られ、クッション材のように頭髪で覆われています。
では、頭と体をつなぐ中継地点である首はどうでしょうか? 首を構成する骨(頸椎)は、背中や腰の部分の背骨と比べると細く、体の骨の中でも華奢なほうです。その周りを囲む筋肉は薄くて、ほとんど皮一枚と言ってもいいほどです。
首に筋肉が少ないのには機能上の理由があり、厚い筋肉にがっしりと覆われて思うままにグルグルと動かせなければ、生きていくのに不都合や危険が生じるためです。
骨も細く、筋肉も薄い。しかも頭髪のように保護するものもなく、常に外界にさらされている場所、それが首です。
骨も筋肉もほとんどなく、守ってくれる壁のようなものがない。なのに皮膚のすぐ下には頸動脈(けいどうみゃく)も走っていますし、両手を合わせて輪っかをつくったぐらいの小さなスペースに、血管、気管、食道、そして数多くの神経が集まる脊髄(せきずい)が通っている。
そう考えると、首がどれだけ弱く、しかも無防備か、おわかりいただけるのではないでしょうか?
生命を司る器官が首に集中している!
ここで改めて、首がどのように成り立っているかを簡単に説明しておきましょう。
首の大切さを実感していただくためには、首の構造に関する知識もある程度必要だからです。
まず首の骨格ですが、これは「頸椎(けいつい)」と呼ばれる7つの骨から成り立っていて、頭に近いほうから「第一頸椎」「第二頸椎」のように名前がつけられています。
ご存知のように、頸椎は「脊椎(せきつい)」という背骨の一部分です。参考までに言うと、脊椎は、「頸椎(首)」「胸椎(胸)」「腰椎(腰)」の3つのパートから構成されています。
この頸椎をサポートしている組織が、柔性のある軟骨組織の「椎間板(ついかんばん)」や頸椎の後方にある「椎間関節」、そしてこれらを支える「靱帯(じんたい)」です。
椎間板は「繊維軟骨」と呼ばれる軟骨組織でできており、頸椎と頸椎の間にあるクッションのような役割を果たしています。これがあることで骨への衝撃を和らげ、首の骨の可動性をある程度高めてくれています。
一方の椎間関節も軟骨からできていますが、こちらは椎間板とは異なる「硝子様軟骨」でできています。軟骨組織のタイプは違うものの、その役割は椎間板同様、頸椎と頸椎とをつなぎ、首の自由でスムーズな動きを可能にすることです。
靭帯や筋肉も頚椎を支えている
(c)辻 聡
靱帯は繊維質でできており、首の前側にある「前縦靱帯」と、首の後ろ側にある「後縦靱帯」に分かれます。
靱帯の役目は、椎間板の周りをしっかり保護し、椎間板がはみ出したり、不均一になったりしないようにカバーすることです。
この3つのパーツがしっかりタッグを組むことで頸椎は守られているわけです。
ただしその半面、どれか一つにでも不具合が生じると、首の調子は途端に悪くなってしまいます。
特に軟骨でできている椎間板や椎間関節は、組織が柔らかい分、すり減ったり、消耗したり、形が変わったりといったことが起こりやすくなります。膝の軟骨がすり減ると、膝に痛みが走ったり、スムーズに動かせない、体を支えられないなどの症状が出たりしてきますが、同じようなことが首にも出てくるのです。
さらに、首に不具合があると、その影響は首の動作だけに留まらず、全身の機能やメンタルヘルスにまで及びます。
神経の束である大変重要な器官「脊髄」、脳に血液を届ける「血管」、吸い込んだ空気を肺に送る「気管」、食べたものを胃に送る「食道」、交感神経と関係の深い甲状腺ホルモンを分泌する「甲状腺」もまた、首にあるからです。
なぜ「首」という1ヵ所が悪くなると、全身にまで影響が及んでしまうのか。
その答えは明白です。私たちの生命を司る大切の器官が、首という細い場所に集中しているからにほかなりません。
(第6回・了)
三井 弘(みつい ひろし)
1943年、岡山県岡山市生まれ。1970年、東京大学医学部を卒業。同整形外科入局。1977年より三井記念病院勤務。1984年「三井式頚椎手術器具」を開発。三井記念病院整形外科医長を経て、現在、三井弘整形外科・リウマチクリニック院長。専門分野は脊椎、関節(人工関節)。日本リウマチ学会評議員。著書に『体の痛みの9割は首で治せる!』(角川SSC新書)、『首は健康ですか?』(岩波アクティブ新書)など多数。
1943年、岡山県岡山市生まれ。1970年、東京大学医学部を卒業。同整形外科入局。1977年より三井記念病院勤務。1984年「三井式頚椎手術器具」を開発。三井記念病院整形外科医長を経て、現在、三井弘整形外科・リウマチクリニック院長。専門分野は脊椎、関節(人工関節)。日本リウマチ学会評議員。著書に『体の痛みの9割は首で治せる!』(角川SSC新書)、『首は健康ですか?』(岩波アクティブ新書)など多数。