カルチャー
2015年1月23日
えっ?マッサージや整体は「首こり」には逆効果
[連載]
体の不調は「首こり」から治す、が正しい【4】
文・三井 弘
マッサージや整体は根本的な解決にはならない!
なんだか肩や背中のあたりがつらい。カチカチにこっていて痛みもあるし、とにかく不快だ......。
そのようなとき、大抵の人が真っ先に駆け込む先がマッサージや整体、カイロプラクティック、鍼灸などではないでしょうか。
マッサージや整体で体をほぐしてもらうと、何といっても気持ちがいいし、たちまち体がすうっと軽くなり、ラクになる。この心地よさは病みつきになります。
私もかつて、この心地よさにハマったことがあります。
私のクリニックに来院される患者さんたちも、街中のマッサージや整体に通っていたという人が相当数にのぼります。
けれども、心地よさや体の軽さを感じていられるのは長くて数日。場合によっては施術の30分後からまた体がこりだしてきたりします。だからまた整体やマッサージを受けたくなる。皆さんも、そのような経験はないでしょうか?
マッサージや整体を受けても、体のつらさがまたぶり返してくるのは、これらが対症療法でしかないからなのです。
疲労によって筋肉がこっているだけという状態のときは、マッサージや整体がある程度の効果をもたらしてくれるでしょう。一時的に、つらい筋肉疲労を緩和させたいときは有効な手段であるとも言えます。
一方で、生活習慣を見直すとか、真の原因を見つけて治すなど、根本的な解決を図らない限り、いくらマッサージや整体を繰り返しても、慢性的な体のつらさが消えてなくなることはありません。
それだけでなく、体の不調が首からきている場合、こうした民間療法を受けることによって症状が悪化する可能性もなきにしもあらずなのです。
たとえば、一般的にはあまり知られていませんが、厚生労働省からは、カイロプラクティック療法に関し「療法の対象とすることが適当でない疾患」として、次のようなものが挙げられています(「医業類似行為に対する取扱いについて」平成三年六月二八日通達)。
一般では「腫瘍性、出血性、感染性疾患、リウマチ、筋萎縮性疾患、心疾患」など。
徒手調整の手技で症状を悪化しうる頻度の高い疾患として、「椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、環軸椎亜脱臼、不安定脊椎、脊椎すべり症」など。
多くが「首」と関係の深い疾患です。つまり首を故障している人は、施術を受けてはいけないとされているわけです。
もしも「首に原因がある」と気づかないまま、不用意に民間の施術を受けて首のあたりを触られたら、かえって状態を悪くしてしまう可能性があります。
私は必ずしも、マッサージや整体などを受けることに反対ではありません。それでスッキリと不調がなくなるのであれば、利用されるのもよいと思います。
ただし、首に問題のある方が安易に民間療法にかかることは危惧しています。首を故障しているのに、そこをぐりぐりといじられることは、整形外科医の立場から患者さんのことを考えて怖さと心配が募ります。
ですから、施術を受けても一向にひどい状態がよくならない、つらさがとれないというときは、再度マッサージや整体にかかる前に、一度医師の診断を受けてほしいと思います。
今の状態でマッサージなどにかかっても大丈夫かを、医師に尋ねたうえで利用していただきたいと思うのです。
それが自分の首を守る大切な方法の一つでもあります。
「首」は全身のネック
毎日「首を痛めている」患者さんと接している医師としては、肩や背中や腰をいたわるのと同じくらい、日常生活の中で首もいたわってほしいという思いがあります。
でも首に関してはどうも軽視されがち、と言うより、あまりにも重要性を忘れられがちであるような気がしてなりません。
首は文字通り、全身の〝ネック〟となる部分です。「いつか治る」「そのうち治る」では手遅れとなる場合もあります。それでなくとも仕事や生活スタイルの変化の中で首はますます酷使される一方なのです。
そのことにぜひ思いを巡らして、今一度「首」の大切さに意識を向けてみてください。
つらい症状がなかなか改善されないときは、まず「首に原因があるのかも?」と疑いをもち、生活習慣を見直すとともに医療機関にも足を運びましょう。
思っている以上に、「首」は健康の要です。そのことを心に刻んでいただきたいと思います。
(第4回・了)
三井 弘(みつい ひろし)
1943年、岡山県岡山市生まれ。1970年、東京大学医学部を卒業。同整形外科入局。1977年より三井記念病院勤務。1984年「三井式頚椎手術器具」を開発。三井記念病院整形外科医長を経て、現在、三井弘整形外科・リウマチクリニック院長。専門分野は脊椎、関節(人工関節)。日本リウマチ学会評議員。著書に『体の痛みの9割は首で治せる!』(角川SSC新書)、『首は健康ですか?』(岩波アクティブ新書)など多数。
1943年、岡山県岡山市生まれ。1970年、東京大学医学部を卒業。同整形外科入局。1977年より三井記念病院勤務。1984年「三井式頚椎手術器具」を開発。三井記念病院整形外科医長を経て、現在、三井弘整形外科・リウマチクリニック院長。専門分野は脊椎、関節(人工関節)。日本リウマチ学会評議員。著書に『体の痛みの9割は首で治せる!』(角川SSC新書)、『首は健康ですか?』(岩波アクティブ新書)など多数。