カルチャー
2014年12月16日
コルチゾールの無駄遣いを避けることが健康への近道
[連載] 「うつ?」と思ったら副腎疲労を疑いなさい【9】
文・本間龍介
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コルチゾールの分泌リズム


ストレスとコルチゾール ※クリックすると拡大

 コルチゾールの分泌量は多すぎても少なすぎても弊害が生じます。もともと微量で機能するものなので、心身をうまく調節するには、状況に応じて「適量」を見極めて、細やかにコントロールしなければならないのです。

 分泌量を「適量」にするためのシステムは、脳の視床下部→下垂体→副腎皮質が、デリケートに連携することによって成り立っています。
 ところが、大本にあたる脳の視床下部にダメージがあると、分泌調整のシステムに機能不全をきたして、ホルモンバランスを崩しやすくなります。

 脳の視床下部がダメージを受ける原因としては、脳の障害や外傷、DVやセクシャルな被害など、度を越えたストレスを受けた場合などが挙げられます。当然ながら、これらは副腎にも大きな負荷となります。
 うつ病や慢性疲労症候群、線維筋痛症、そのほか原因不明とされる病気の多くは、この機能不全が関与しているのではないかと考えられています。

 また、脳の視床下部に問題がある場合は、副腎疲労の治療にも難儀します。
 では、コルチゾールはどのように分泌量が変化するのでしょうか。

コルチゾールの日内変動 ※クリックすると拡大

 コルチゾールの分泌は終日一定ではなく、ベースとしては脳にある体内時計によって調整されています。これを日内変動(サーカディアン・リズム)と言います。コルチゾールの日内変動は、のとおり、大まかには朝に最高に達し、夜中に最低になります。

 というのも、コルチゾールは体を目覚めさせる働きもあるので、早朝から次第に分泌量が増えるのです。そして、朝の8時あたりにピークを迎え、ストレスと向き合ったり、より多くのエネルギーを必要とする日中の活動に備えます。
 その後は基本的に分泌量が徐々に減り、夜中にはピーク時の10分の1以下まで低下します。

 こうしたコルチゾールの分泌が低くなる夜間は、ストレスの多い日中にしっかり働いた副腎を、きちんと休ませるための時間帯にあたります。

 一方、日内変動のリズムに反して、コルチゾールが分泌されたり、されなかったりすると、心身の不調をきたしやすくなります。また、コルチゾールの分泌量が多いほど、副腎を疲弊させてしまいます。

 さらに、基本的に年齢を重ねるにつれて、コルチゾールの分泌量は減少します。これはステロイドホルモンに限らず、ホルモン全般にあてはまることです。
 たとえば、糖尿病の話題で必ず出てくるインスリン。このホルモンは血糖値を下げる働きがあることで知られていますが、最近では、このインスリンも一生の間に分泌できる量が、ある程度決まっているのではないかと考えられています。

 とすると、インスリンは限られた資源として、いかに長持ちさせるかという発想が必要でしょう。具体的には、炭水化物(糖質)を減らす、食べる順番に気をつけるなど、いくつか有効な方法はありますが、こうした試みによって、インスリンの無駄遣いを減らせるのです。

 コルチゾールについても同様に、そういった考え方をあてはめていく必要があるのではないかと思います。やはり、コルチゾールも決して無尽蔵に分泌できるのではなく、どこかで限界があるのではないかと、日々の診療を通じて感じています。

 たとえば、大きなストレスを浴び続けてしまうと、コルチゾールが枯渇しやすくなります。ですから、いかにストレスをマネジメントできるかが、コルチゾールの浪費を防ぎ、副腎の健康をキープする重要なカギになるのです。

コルチゾールの無駄遣いを避けよう


 副腎疲労そのものは病気ではないので、副腎疲労の診断のガイドラインというのは設定されていません。副腎疲労の場合は、一にも二にも自覚症状の有無が重要です。

 たとえば、コルチゾールの生産量が非常に多くても少なくても、本人が快適に過ごしていて、何の問題もなければ、治療の必要はありません。

 また、副腎疲労は病気ではないという理由から、日本ではそのための検査は存在しませんが、海外では、血清、唾液、尿を調べて、体内で働くコルチゾールの状態を調べられます。その人のコルチゾールの時間帯ごとの分泌量、一日の総生産量、そして、何よりもストレスの状況を把握して、総合的に診断して治療方針を決めていきます。

 副腎疲労の治療には順番も大事で、腸からスタートして、肝臓、内分泌系......と順番に行うのが基本です。

 腸から始めるのは、腸は異物が入ってくる入り口であり、ストレスの入り口とも捉えられるからです。また、腸は炎症も起きやすく、副腎疲労とも深くかかわってきます。

 一方、肝臓は毒というストレス源を解毒化する臓器です。言ってみれば、ストレスのはけ口であり、解毒しきれないと、毒が体内を巡り、体のあちこちで炎症を招く原因となります。そして、炎症が増えれば増えるほど、副腎疲労も悪化してしまいます。

 繰り返しになりますが、コルチゾールの無駄遣いをできるだけ避けること、そしてストレスへのディフェンス力を上げること。これが副腎疲労のケアの大原則です。そのためには、腸と肝臓のコンディションを整えることが肝要です。

(了)








「うつ?」と思ったら副腎疲労を疑いなさい
9割の医者が知らないストレス社会の新病
本間龍介 著/本間良子 監修



【監修】本間良子(ほんま りょうこ)
埼玉県出身。スクエアクリニック院長。聖マリアンナ医科大学医学部卒業。同大学病院総合心療内科入局。専門は内科、皮膚科。日本抗加齢医学会専門医、米国抗加齢医学会フェロー、日本医師会認定産業医、日本内科学会会員。「副腎疲労」(アドレナル・ファティーグ)の第一人者であるウィルソン博士に師事。近年はアドレナル・ファティーグ外来にとどまらず、ホルモン補充療法やブレインマネジメントまで診療の幅を広げる。アドレナル・ファティーグの夫をサポートした経験から、患者家族へのアドバイスも親身に行っている。現在、南フロリダ大学大学院にて医療栄養学を専攻。著書に『しつこい疲れは副腎疲労が原因だった』(祥伝社文庫)がある。

【著者】本間龍介(ほんまりゅうすけ)
東京都出身。スクエアクリニック副院長。聖マリアンナ医科大学医学部卒業。同大学院医学研究科修了。医学博士。日本抗加齢医学会専門医・評議員、米国抗加齢医学会フェロー、日本医師会認定産業医、日本内科学会会員。「副腎疲労」(アドレナル・ファティーグ)の第一人者であるウィルソン博士に師事。自身もかつてアドレナル・ファティーグに苦しんだ経験を活かし、日本ではまだ数少ない外来診療を行っている。監修に『しつこい疲れは副腎疲労が原因だった』(祥伝社文庫)がある。
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