カルチャー
2015年2月25日
毎日30分の「正しい仮眠」で、認知症が予防できる
[連載] 脳が突然冴えだす「瞬間」仮眠【4】
文・坪田 聡
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忙しい時ほど仮眠で記憶力を向上させたほうがいい


 以前は、「睡眠=脳の休息」と考えられていました。
 しかし、最近では、何かを記憶してからずっと起きているよりも眠ったほうが、よく覚えていることがいろんな実験結果からわかってきています。

 たとえば、2語で1組の単語を20組暗記し、12時間後に別の単語20組を覚える実験が行われました。睡眠グループは2回の記憶課題の間に睡眠を取り、覚醒グループは睡眠を取りませんでした。

 そして、2回目の単語の記憶を行った後に、1回目の単語20組についてテストしてみると、睡眠グループのほうが明らかに多くの単語を覚えていたのです。

 このように、睡眠によって記憶が脳に残りやすいだけでなく、睡眠を取ると、後でほかのことを覚えても、最初に記憶したことが保たれやすいこともわかっています。

 このことは睡眠学的に見ても証明されます。眠っている間の脳波を見ると、宣言記憶(言葉で表現できる記憶)は脳の眠りであるノンレム睡眠のうち、深い睡眠(徐波睡眠)のときに脳に固定されるからです。

 この徐波睡眠は、夜の睡眠では前半部分に多く現れます。つまり、勉強したことをしっかり記憶したければ、午前0時には眠りに就いて、寝ついてからの1時間半から3時間の睡眠が重要となってくるのです。

 仮眠にも、記憶を強化する働きがあります。
 学習した後に短い時間だけ仮眠を取って、どれだけ記憶できたかを調べた実験があるのですが、このとき、仮眠のあいだに徐波睡眠が多いほど、記憶の再生率がよく、脳が活発に活動していることがわかりました。

 また、仮眠中に夢を見ているときも、不要な記憶を捨てたり、新しい記憶のネットワークを作り上げたりしているとも言われています。
 記憶力アップにも効果がある仮眠ですが、実際、福岡県のある進学校が1日15分の昼寝タイムを設けたところ、昼寝をした生徒は勉強にやる気が出て、成績も向上したと答えています。

 忙しいときこそなるべく仮眠を取って、記憶力を向上させたほうがいいのです。

認知症予防には「正しい仮眠」が欠かせない


 厚生労働省の研究班の推計によれば、2012年時点での認知症高齢者が462万人、予備軍とされる「軽度認知障害(MCI)」は約400万人とされています。
 これは65歳以上の高齢者の4人に1人が、認知症患者あるいは認知症になる危険が高いということを意味します。

 最近では、昼寝と認知症の関係もわかってきています。
 毎日30分以内の昼寝を取っていると、認知症になる確率を5分の1に減らせるのです。
 一方、習慣的に1時間以上の昼寝をしている人は、そうでない人に比べて認知症になる確率が2倍になってしまいます。

 適切な時間帯に短い仮眠を取ると、午後の眠気が解消されて、目覚めた後に脳の働きが回復するので活動的に過ごせます。
 逆に、長すぎたり遅すぎたりする仮眠を取ると、睡眠と覚醒のリズムが崩れて、夜に寝つきが悪くなったり深い睡眠が取れなくなったりして、脳の疲労回復が不十分になります。
 この状態が毎日繰り返されると、認知機能が衰えてくるのではないかと考えられます。

 認知症にならないための予防として、高齢者に勧められている昼寝の取り方は、午後3時までに30分以内の仮眠を取ることです。
 このとき、ゴロッと横になって眠るのではなく、机に突っ伏したり椅子にもたれかかったりして、ちょっと眠るのが効果的です。

 若干本題からそれますが、ほかにも、認知症予防によいとされている生活習慣を参考までに挙げてみます。

(1)睡眠環境を整える
 暗くて静かな部屋で眠りましょう。真っ暗が不安なら、豆電球のフットライトをつけておきます。眠りやすい寝室の温度は16~26度、湿度は50~60パーセントです。エアコンなどをうまく使って、温度と湿度を調整してください。

(2)十分に日の光に当たる
 光は覚醒度を上げる大切な要因です。日中、明るいところで過ごすと、覚醒と睡眠のリズムにメリハリがついて、夜にはグッスリと眠れます。

(3)定時の就床と起床を心がける
 特に、目覚める時刻を一定にすると、体内時計がきちんと働いてくれます。目覚めて明るい光を見た時刻から14~16時間経つと、睡眠ホルモン・メラトニンが分泌されて、自然に眠たくなってきます。

(4)規則正しい食事や適度な運動を心がける
 睡眠の目的の一つが、心身の疲労回復です。活動量が少なければ、あまり眠らなくてもよいというわけです。日中にしっかり身体と頭を使っておけば、夜には疲れて眠くなってきます。

(5)夕方以降に水分を摂りすぎない
 熱中症や脱水症の予防のため、必要な水分を摂ることはとても大切です。しかし、夜中に3回以上もトイレのために目覚めるようなら、眠る前の水分量を見直してみてください。

(6)過眠や不眠の原因となる薬に注意する
 夕食後はカフェインやニコチンを摂らないようにしましょう。降圧薬や副腎皮質ステロイド、パーキンソン病治療薬、抗うつ薬などのなかには、睡眠障害を起こすものもあります。薬が原因と考えられる場合は、主治医と相談してみてください。

(7)痛みやかゆみに対処する
 ストレスよりも体の症状のほうが、不眠の原因になりやすいことがわかっています。関節や首・腰の痛み、体のかゆみは、きちんと治療しておきましょう。

(8)必要な分だけ睡眠を取る
 若い頃に8時間眠れた人もある程度の年齢になると、6時間ほどしか眠れなくなることがよくあります。それは、脳や体が必要とする睡眠時間が、短くなったからでもあります。

(9)無理して眠ろうとしない
 私たちは頑張れば目覚められますが、自分の意志だけで眠ることはできません。夜、布団に入ってもなかなか眠れなかったり、朝早く目覚めてその後眠れなかったりしたら、さっさと布団から出てしまいましょう。

(第4回・了)





脳が突然冴えだす「瞬間」仮眠
坪田 聡 著



【著者】坪田聡(つぼた さとる)
1963年福井県生まれ。医学博士。雨晴クリニック副院長。日本睡眠学会、日本コーチ協会、日本医師会、ヘルスケア・コーチング研究会に所属。過酷なストレスに晒される現代、「睡眠に関する問題をスムーズに解決し、快眠生活を送る」ための指導を行なう睡眠コーチ。医師とビジネス・コーチの顔を持ち、健康的な睡眠に役立つ情報を提供し、睡眠の質を向上するための指導や普及に努める。2006年に生涯学習開発財団認定コーチ、2007年からAll About 睡眠・快眠ガイドを担当。「ブリーズライト」のCMに出演。著書に『脳も身体も冴えわたる1分仮眠法』(すばる舎)など多数。近著は『脳が突然冴えだす「瞬間」仮眠』。
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