カルチャー
2015年6月24日
中国との付き合い方は「ベトナム」が教えてくれる
[連載] 中国との付き合い方はベトナムに学べ【1】
文・中村繁夫
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大国の中国相手にも負けないベトナム


ベトナムは中越戦争で近代兵器を用い中国をあっさり返り討ちにした

 何をもって大国とするかの定義はさまざまだが、たとえば人口や経済力という物差しで見ても明らかに中国とベトナムには大きな差がある。
 中国の人口は約14億人に対しベトナムは約9000万人。名目GDPでも中国は2位でベトナムは58位(2013年)である。

 そうした不利とも思える差があるにもかかわらず、ベトナムは中国との度重なる戦いの歴史において決定的な敗戦をしていない。大国相手に決して屈服しないのである。

 もちろん、ベトナムが一方的に中国を上回ってきたわけではない。守勢、劣勢を余儀なくされたことも数多い。しかし、そこから粘り強く抵抗を止めず、最終的に撥ね返す強さを持っているのがベトナムだと言ってもいい。

 私見ではあるが、ベトナムは中国からの侵略に対しても、敵を中へと呼び込んで、「ゲリラ戦」に持ち込むことで実質的に相手を参らせるという戦いが多い。言うなれば「アウェイの戦い」は不得意だが、「ホームの戦い」には滅法強いのがベトナムなのである。

 1979年の中越戦争でも、懲罰を掲げて侵攻してきた圧倒的戦力の中国に対し、ベトナム軍はカンボジア制圧のため国内の残余兵力はわずかだったにもかかわらず、ベトナム戦争での豊富な経験とソ連や米国の兵器を器用に使いこなし、1カ月も経たないうちに中国に「撤退宣言」を出させている。

 表現は良くないが、ベトナム人は中国に対して「喧嘩慣れ」しているので、中国に対しては容易には屈しないのである。

 また我慢強さ、忍耐強さという面でもベトナムは中国を相当上回っている。たとえばベトナム人は「ひもじさ」というものを決して表に出さない。日本にも「武士は食わねど高楊枝」という言葉があるが、そういったやせ我慢や体面とも少し違う気がする。

 根本的に他者に弱みは見せないように教育され、精神性の中に織り込まれているのかもしれない。

 私が現地でベトナム人の社員に「メシ食べようや。ワシ奢るから行こ」と誘っても「まあ、いいです」と素っ気ない。下に見られたくないという意識が高いのだ。何度も「そんな気にするな」と言って、ようやく一緒に食事に行っても、どこか恥ずかしそうに食べるのである。

 中国人の場合はどうかと言えば、こちらが誘う前から「お腹が減った」と何回も言う。それはそれで人間らしいのだが、こんなところにも中国人とベトナム人の根本的な「強さ」の違いが見て取れるのではないだろうか。






中国との付き合い方はベトナムに学べ
中村繁夫 著



中村繁夫(なかむらしげお)
京都府生まれ。大学院在学中に世界35 カ国を放浪。専門商社の蝶理に入社し、以後30年間レアメタル部門で輸入買い付けを担当する。2004年、部門ごとMBO を実施し、日本初のレアメタル専門商社アドバンストマテリアルジャパンの代表取締役社長に就任する。「レアメタル王」として、世界102 カ国で数多くの交渉を経験するなかで、ベトナム人の交渉術が日本人に参考になることを説く。著書に『レアメタル・パニック』(光文社)、『2次会は出るな!』(フォレスト出版)、『中国のエリートは実は日本好きだ!』(東洋経済新報社)などがある。
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