カルチャー
2015年6月24日
中国との付き合い方は「ベトナム」が教えてくれる
[連載]
中国との付き合い方はベトナムに学べ【1】
文・中村繁夫
ベトナム流のしたたかな喧嘩の仕方
日本もベトナムと同じように尖閣諸島問題などで、時に中国との間で緊張状態を強いられる。レアメタル紛争のように中国から経済的打撃を受けることもある。
そうした状況にベトナムなら、どのように対処するだろうか。
2014年4月に起こった中国当局による商船三井が保有する鉄鉱石輸送船の差し押さえ事件なども、ベトナムが当事者であればおそらく取り返しに行ったはずだ。
そもそも1972年に発出された日中共同声明において、中国が日本の戦争賠償請求を放棄したことにより、民間や個人の請求権はなくなったとされているが、中国側は戦争賠償とは関係なく一般の商業契約を巡る民事訴訟に基づく措置という主張をしている。
そのため中国側の裁判で1930年代の日中戦争時の徴用船に対する未払い賃貸料の支払いが命じられ、商船三井側は和解に向けた示談交渉を行っていたところに、突然の差し押さえが行われ、約40億円の供託金を支払うことで差し押さえが解除されたのである。
この間、日本政府が取った対応は「中国でビジネスを展開する日本企業に、萎縮効果を生むことにもなりかねない。深く憂慮し、中国側が適切な対応を取るよう強く期待している」というような、極めて日本的な生ぬるいものだった。
この事件にも中国政府のさまざまな思惑があることは容易に想像できるが、ベトナムであれば違う手段で船を取り戻しただろう。過去の例から考えれば、西沙諸島での衝突のように、まず大声をあげて中国の行為を非難し、自らの味方を集める。世論も高めるためにメディアでも連日トップで扱う。
そればかりか、ここぞという場面では中国に対して戦略的に「キレる」ということもやっていたはずだ。本当に見境をなくしてしまうわけではない。冷静に駆け引きの中で相手を見ながらキレるのである。
そうすることで味方をさらに引き込み、中国に対しても「思うようにはならない」ことをメッセージとして受け取らせるのだ。
それに対して日本は、いつもキレることなく紳士的に「なんとかお願いします」という態度しか取らない。それでは相手はますます日本をなめてかかるし、周囲も力を貸そうとは本気で思わないだろう。
中国が「やったもの勝ち」の国であることをベトナムはよくわかっている。だからこそ、それで相手の思うつぼにならないように、自分たちもしたたかに打って出るわけだ。
小さなところに本質は表れる
ベトナム人は中国人の言うことを額面通りには受け取らない。過去の歴史を考えれば当然である。
彼らからすれば、中国人は「わざと小さな嘘をつく」というのは常識である。その嘘が通ってしまうと、また次にそれよりも大きい嘘をつく。そうこうするうちに、いつの間にか嘘が本当のことになるのだ。
嘘でも言い続ければ本当のことになる感覚は日本人には、なかなか受け入れ難いものである。自分が隠していることが見破られたときには「すみませんでした」と言う日本人がほとんどだろう。嘘がばれているのに、嘘をつき通すというのは「恥ずかしい」という共通感覚が日本人にはある。
また、中国では、仮に誰もが入れる場所に何かのモノが置いてあって、それを誰かが使ったり持っていったとしても「悪いことをした」という感覚はあまりない。むしろ、そういう場所に置いておくほうが悪いというのが中国では普通の感覚である。
それは、是々非々の問題ではなく「そういうもの」なのだ。小さなことかもしれないが、そういった部分から中国を理解しないことには中国という国と付き合っていくのは難しい。
先ほどの日本船差し押さえにしても、それはルールや共通認識の問題ではなく、中国としては「やったもの勝ち」というだけのことだ。それをやって、うまくいかないかもしれないが、うまくいくこともあるのだからやったほうがいい。そんな感覚なのである。
たとえば、私の会社でもボーナス時期の前になると中国人社員は、少しでも私の心証を良くしようと、わりと見え見えの点数稼ぎをする。彼らにしてみれば、やって損することがないならやったほうがいいというわけだ。
言い換えれば、中国人は自分を自分で騙すことができる。日本人は「恥の文化」だが中国人は「面子(メンツ)の文化」というのはよく言われることだが、本当にその通りである。自分で自分を恥ずかしいという感覚はない代わりに、面子をなくすようなことがあれば相当深く根に持つ。
また、みんながやっていることだから自分もやるという考え方も中国では普通のことだ。日本では政治家が〝うちわ〟を配ったことが問題になり辞職にまで追い込まれ たが、中国であれば金額が知れていれば「みんながやっていること」なので、特に問題にもならない。
日本人はとかく綺麗事を持ち出して現実に対処しようとするが、日本ではそれで通用しても中国に限らず世界では通用しないことを知っておいたほうがいい。
なお、ベトナムを映し鏡に我われが中国をはじめ世界といかに付き合っていくかについては、7月16日発売の『中国との付き合い方はベトナムに学べ』(SB新書)に詳しくまとめている。あわせてご一読いただきたい。
(了)
中村繁夫(なかむらしげお)
京都府生まれ。大学院在学中に世界35 カ国を放浪。専門商社の蝶理に入社し、以後30年間レアメタル部門で輸入買い付けを担当する。2004年、部門ごとMBO を実施し、日本初のレアメタル専門商社アドバンストマテリアルジャパンの代表取締役社長に就任する。「レアメタル王」として、世界102 カ国で数多くの交渉を経験するなかで、ベトナム人の交渉術が日本人に参考になることを説く。著書に『レアメタル・パニック』(光文社)、『2次会は出るな!』(フォレスト出版)、『中国のエリートは実は日本好きだ!』(東洋経済新報社)などがある。
京都府生まれ。大学院在学中に世界35 カ国を放浪。専門商社の蝶理に入社し、以後30年間レアメタル部門で輸入買い付けを担当する。2004年、部門ごとMBO を実施し、日本初のレアメタル専門商社アドバンストマテリアルジャパンの代表取締役社長に就任する。「レアメタル王」として、世界102 カ国で数多くの交渉を経験するなかで、ベトナム人の交渉術が日本人に参考になることを説く。著書に『レアメタル・パニック』(光文社)、『2次会は出るな!』(フォレスト出版)、『中国のエリートは実は日本好きだ!』(東洋経済新報社)などがある。