カルチャー
2015年6月24日
中国との付き合い方は「ベトナム」が教えてくれる
[連載] 中国との付き合い方はベトナムに学べ【1】
文・中村繁夫
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机上の空論では中国と付き合えない!


 日本人は中国との本当の付き合い方を知らない─。

 いきなり何を言い出すのかと思われるかもしれないが、政治はもとより一般のビジネスにおいても日本人の中国との付き合い下手が目につく。

 必要以上に身構えたり、敵視や見下したかと思えば、自分に都合の悪い場面では媚びるような態度を取ったりする。これでは世界から「外交下手」「子どもの付き合い」と呼ばれても仕方ないだろう。

 ひと言で言ってしまえば、付き合い方を知らない相手に対して挙動不審になっているようなものである。これが十代の若者の恋愛ならいざ知らず、大の大人の、それもビジネスでの関係においても見られるのはいかがなものか。

 このままでは、日本の将来のためにあまりにもまずい。嫌悪でもおもねるのでもなく、地政学的に切っても切り離せない隣人として「大人の付き合い」をするためにどうすればいいのかを明らかにしたいと思う。

 だが中国に直接教えを請うのは甚だ情けない。そこで、中国との付き合い方の兄貴分としてご登場願うのがベトナムである。なにしろ、ベトナムと中国との関係の複雑さは日本のそれとの比ではない。1000年に及ぶ中国の支配はベトナムに科挙制度などの官僚統治の仕組みや漢字文化、儒教などをもたらす一方で民族的なアイデンティティを呼び起こした。

 長い歴史の中で、史実として明らかになっているだけでも中国との15回もの戦いがあり、その都度徹底して抵抗しつつ、一方では朝貢外交をしながら「北属南進」と呼ばれる南への領土拡大も図っていたのである。つまり、中国という大国相手に決して負けず、一筋縄ではいかない高度な外交術を身に付けてきたのがベトナムなのだ。

 最近では、西沙諸島における中国との衝突でも、自国の主権は徹底的に守る強硬姿勢を示し、国際世論を味方につけつつも、中国との関係を破壊する「決定的な衝突」は避け、結果的に中国側を撤退させASEANを団結させるという「勝利の結実」を得た。

 なぜ、こうした本当の意味で「賢い」中国との付き合い方がベトナムにできて、日本にはできないのか。その一番の要因は、日本人が中国の表面的な部分や情報しか見ていないからである。

 ものづくりの世界では「現場」「現物」「現実」を見よという"三現主義"が重視されるが、なぜか政治経済の世界では「現場」「現物」「現実」からかけ離れたところで付き合いを進めようとすることが多い。それではうまくいくわけがない。本来はこうあるべきだという机上の空論を並べたところで、現実は違うのである。

 その点、ベトナムはしたたかなまでに"三現主義"を徹底している。その場、その時の状況に応じた「正解」を見極めて実行するからこそ、大国の中国といえども互角の戦いを強いられるわけである。






中国との付き合い方はベトナムに学べ
中村繁夫 著



中村繁夫(なかむらしげお)
京都府生まれ。大学院在学中に世界35 カ国を放浪。専門商社の蝶理に入社し、以後30年間レアメタル部門で輸入買い付けを担当する。2004年、部門ごとMBO を実施し、日本初のレアメタル専門商社アドバンストマテリアルジャパンの代表取締役社長に就任する。「レアメタル王」として、世界102 カ国で数多くの交渉を経験するなかで、ベトナム人の交渉術が日本人に参考になることを説く。著書に『レアメタル・パニック』(光文社)、『2次会は出るな!』(フォレスト出版)、『中国のエリートは実は日本好きだ!』(東洋経済新報社)などがある。
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