カルチャー
2015年12月3日
止まらない日本の新宗教の衰退
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【14】
文・島田裕巳
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冷戦終結とともに始まった衰退


 もう一つ、生長の家について注目しておかなければならないのは、海外における発展である。
 中心はブラジルで、戦前から生長の家は進出していたが、戦後、戦争に敗れることで日系のブラジル移民の民族的なアイデンティティーが脅かされると、敗戦を正当化する生長の家の教えが広く受け入れられるようになる。とくに1960年代に入ると、ブラジルで積極的な布教活動を展開し、国内をはるかに越える250万人の信者を獲得する。北杜市の現在の本部が、国際本部を名乗っているのも、このことが関係している。

 しかし、時代は大きく変わっていった。
 やがて昭和の時代も終わり、谷口が信仰の対象としてきた昭和天皇は亡くなり、ベルリンの壁崩壊によってソ連が消滅し、冷戦構造に終焉がもたらされた。
 そうなれば、生長の家や生長の家政治連合が、右派の旗頭として活躍する余地はなくなる。すでにこの時点で、生長の家の衰退は決まっていたことになる。

 昭和が終わる前、昭和60(1985)年に谷口は亡くなり、その後を娘婿の谷口清超が継ぐが、その次男である雅宣は、副総裁に就任すると、それまでの教団の主張とは異なり、太平洋戦争を侵略と認め、聖戦というとらえ方を否定した。それによって、旧来の天皇主義の右翼的な教団というイメージを払拭しようとしたが、教団全体にそれが受け入れられることはなく、かえって教団を衰退させることに結びついていった。

 しかし、そもそも生長の家の主張は、現代の社会においては多くの人間に受け入れられることがないものであり、若い世代になればなるほど理解されないものである。そうした状況のなかで、教団の方針を大きく転換させようとしても、そうなると生長の家の独自性が失われる。戦後の一時期、生長の家は時代の流れに乗っていた分、流れが変われば、支持者を失うことになっていくのである。

日本の新宗教の今


 生長の家の場合、所轄官庁である文化庁に対して、以前はかなり誇大な信者数を報告していた。おおむね100万人と称していて、ときには300万人と称することもあった。
 ところが、1980年代に入ったところで、すでにその誇大な数字を改め、実情にあった信者数を報告するようになる。したがって、『宗教年鑑』平成2年度版における信者数は、82万1998人となっていた。

 果たしてこれが実数を反映したものなのかどうか、外部から確かめることはできないが、平成26年版になると、それからほぼ四半世紀が過ぎ、生長の家の信者数は55万310人と報告されている。この間、27万人近く減少したことになる。

 この連載の最初に、各新宗教の教団において、平成の時代に入ってから、大幅な信者数の減少が起こっていることについてはすでにふれた。霊友会のように半分以下に減少した教団もあった。
 その点では、生長の家が特別なわけではないということになる。

 しかし、私は、2007年に刊行した『日本の10大新宗教』(幻冬舎新書)のなかで、生長の家を取り上げてはいるものの、その冒頭の部分では、すでに生長の家の衰退について述べていた。
 
 生長の家の本部の集会に参加した人間から、それがひどく寂しいものだったという報告を受けていて、それが印象に残っていたからである。生長の家は、新宗教の衰退という現象において、その先鞭をつけたところがある。
 
それも、すでに述べたように、生長の家の教えが時代とそぐわないものになってきたからである。たしかに今でも、戦前のあり方に戻ることを主張するような人間はいる。現在の安倍政権にもそうした傾向はある。

 しかし、優生保護法の改正反対などは、人工妊娠中絶を否定するものであり、現在の社会では支持者を見出すことが難しい問題である。まして、教団のなかで、路線をめぐって深刻な対立が起こるようでは、信者をつなぎとめておくことはできない。

止まらない日本の宗教衰退


 森のなかへの本部の移転や、いのちの樹林の建設は、教団のイメージを根本から変えようとする試みなのであろうが、本部が辺鄙な場所に移ってしまえば、これまで以上にその存在感は薄れていく。新宗教は、都市を基盤にしてその勢力を拡大していく組織であり、地方に拠点を構えることは本来難しいはずなのである。

 生長の家が衰退し、PL教団も衰退している。天理教も立正佼成会も、そして霊友会も信者の数は減っている。
 しかも、衰退の勢いはかなり激しい。そこには、誇大に発表していた信者数を実情に即したものに変えてきたという側面もあるが、単にそれだけではないだろう。

 というのも、信者数の現象は依然として続いているからである。
 『宗教年鑑』の平成22年版と26年版を比較してみると、近年における変化がわかる。
 生長の家の場合、平成22年版では68万2054人であった。それが、平成26年版では55万310人である。この4年で、13万人も減少していることになる。平成22年を基準にすれば、20パーセント近い減少である。

 PL教団の場合には、この間、96万5569人が92万2367人に減少している。減少した数は4万人以上で、生長の家ほどではないが、信者は減り続けている。

 ほかの教団についても数字をあげれば、天理教は118万5123人から116万9275人、立正佼成会は349万4205人が308万9374人、霊友会が151万6416人が136万9050人と、それぞれ減少している。それも、わずか4年のあいだでの変化である。

 増えている教団もないわけではない。
 立川市に本部をおく真如苑の場合には、88万7702人が91万6226人に増えている。真如苑は、平成2年版では、67万2517人だったから、四半世紀の間に、4割近く信者数を増やしており、「一人勝ち」の状況を呈している。

 ただ、真如苑の場合には、他の新宗教の教団に比べて組織性は弱い。信者は、本部などに出かけて「接心」と呼ばれるカウンセリングに近い体験を重ねるのが主であり、果たして他の新宗教と同列に扱っていいのか、そこには問題がある。

 ヽ心会(ちゅしんかい)という運命鑑定からはじまった新宗教の場合には、平成2年版では5万7273人の信者数だったのが、平成22年版では2万400人と減り、さらに平成26年版では、なんと1964人と激減している。このような新宗教も、現在ではあらわれている。
 新宗教の衰退という現象は、年を追うほどに顕著なものになっているのである。

(続)





宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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