カルチャー
2015年9月10日
宗教と政治経済の関係を説明する一つのセオリー
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【2】
文・島田裕巳
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これまで新宗教や既存宗教、宗教現象に幅広く、タブーなく切り込んできた宗教学者の島田 裕巳先生。「衰退」の兆しが見え始めた日本の宗教から話が始まる。そこから見えてくるのは、日本だけでなく世界中で同時多発的に起きる「共同体」なき世界。資本主義は宗教さえも解体し、どこへ行こうとしているのか。「ポスト資本主義社会」の宗教の行方を明示する長期連載をお届けします。


 最初に、日本の宗教が、新宗教でも、既成宗教でも衰退の気配を見せ、危機に陥っていることについて述べた。

 こうしたことはニュースで取り上げられることも少ないし、全体をウォッチしている人もほとんどいないので、注目されたりはしないが、「宗教消滅」は、実は日本に限らず、世界中で起こっていることである。
 世界について話を進める前に、一つ理解しておかなければならないことがある。
 そこには、一つの「セオリー」が存在するということである。

 現在の社会においては、「経済」がとくに注目を集めている。グローバル経済が進展するなかで、経済現象は複雑化し、それが私たちの生活にも多様な形で影響を与えるようになってきた。
 そうしたグローバル経済の動向に対してどう対処していくのか、現代の政治の課題はそこにある。その点で、経済と政治は密接不可分な関係にある。
 しかし、今回、問題にする「宗教」も、経済や政治の動きとやはり連動しており、その強い影響を受けている。

 宗教と言うと、日本人はこころの問題を扱う文化現象であり、経済や政治との結びつきはそれほどないかのように考えてしまうが、実際にはそうではない。
 これまでの人類の歴史を考えてみれば、宗教が相当に重要な役割を果たしていたことが分かってくるだろう。その点について、深く考察を進めることはしないが、経済と政治、そして宗教が絡み合うことで、人類社会の歴史が展開されてきたことは念頭においておかなければならない。

 その際、一つのセオリーを認識しておかなければならないのだが、それを具体的な形で示しているのが、日本の戦後社会における「創価学会の発展」という現象である。

創価学会を広めた手口


 創価学会は、現在、日本でもっとも大きな新宗教の教団だが、戦争が終わった時点では、戦時中に開祖が獄死したこともあり、組織としてはほぼ壊滅的な状態にあった。

 にもかかわらず、戦後急速に拡大し、巨大教団への道を歩んだ。その事実は、戦後の宗教史を考える上でも、戦後史そのものを考える上でも、きわめて重要な事柄である。なにしろ創価学会は、827万世帯の信者数を誇っているだけではなく、政治の世界に進出し、公明党という政党まで作り上げた。公明党は長く野党であったものの、1993年にはじめて非自民・非共産の連立政権に参加し、与党の地位を確保した。その後、紆余曲折はあるものの、現在では自民党と連立政権を組み、国政に多大な影響を与えている。

 その点で、創価学会が政治と密接な関係を結んでいることはすぐに理解されるだろう。だが、教団が急速に拡大していった背景には、日本経済の大きなうねりが関係していた。

 戦後、壊滅的な状態にあった、組織の立て直しをはかったのが戸田城聖という人物である。戸田は、戦前に創価学会の前身となる「創価教育学会」を発足させた教育者で、地理学者の牧口常三郎に師事し、戦時中はともに獄につながれるという体験をしている。

 牧口の方は獄死してしまったわけだが、戸田は敗戦の前に出獄し、戦争が終わると、創価教育学会を創価学会と改称し、理事長として組織の立て直しをはかる。

 戦前の段階で創価教育学会の会員は最大限で4000人程度であり、1951年に戸田が第2代の会長に就任した時点でも、まだ会員は1000世帯前後に過ぎなかった。しかし、戸田の会長就任以降、創価学会の会員は急速に伸びていく。1955年には30万世帯に達しているし、60年には150万世帯を超えた。
 もちろん、宗教教団の信者数というのは正確なことが分からないものだが、1950年代後半になると、創価学会が文化部という組織を作って政界に進出したこともあり、存在はしだいに注目されるようになっていた。

 では、創価学会はなぜ急速に拡大したのだろうか。

 一つには、創価学会が「折伏」というかなり強引な布教手段をとったからである。
 「折伏」は仏教の用語で、諄々と教えを説いて相手を説得する「摂受」と対になることばである。折伏を行う際には、その対象となる人間がすでにもっている信仰を徹底的に批判、否定し、それで改宗を促す。当時、創価学会の会員は、キリスト教の教会にも出かけていき、そこでキリスト教を徹底的に攻撃するなどの行動もとった。
 日本の宗教団体のなかで、これだけ活発で、戦闘的とも言える布教活動を展開したところは、それまでなかった。創価学会では、『折伏教典』という折伏のためのマニュアルまで用意していた。この『折伏教典』には、創価学会の教えとともに、他の宗教や他の宗派の教えがいかに間違ったものであるかが解説されていた。会員たちは、そこに書かれていることをそのまま信じ、それを武器に相手をやりこめたのである。






宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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