カルチャー
2015年9月3日
資本主義は宗教と心中する―迫り来る『宗教消滅』の時代―
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【1】
文・島田裕巳
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22年間で半分に激減した信者数


 調べてみると、どうやらPL教団の衰退は間違いのない事実のようだった。

 宗教団体の信者数というものは、なかなか調べがつかないもので、少なくとも、日本全体の宗教をすべて網羅したような調査は存在しない。

 ただ、それぞれの宗教団体は宗教法人を組織しており、宗教法人を所轄している文化庁の宗務課では、毎年、『宗教年鑑』というものを刊行しているが、そこに、各教団の信者数が掲載されている。

 一つ問題なのは、「信者数」は、それぞれの教団が申告したものをそのまま載せたものだということ。いわば「自称」の数字である。

 それでも、『宗教年鑑』の平成2年版では、PL教団の信者数は181万2384人となっていたのが、平成24年版では94万2967人と大きく減少していた。

 この22年間に、PL教団の信者数は、ほぼ半減しているのである。

 教団の側の自己申告である以上、数字を操作して、信者数を誇張することだってできる。実際、どう見ても、そうした操作を行っているとしか思えない教団もある。また、信者数を申告しなくても、それでお咎めを受けるわけではないので、そもそも申告をしていない教団もある。

 にもかかわらず、PL教団は、「教団が衰退している」と示す数字を公表しているわけである。

 さらに調べてみると、PL教団では、ここ数年、あるいは10数年にわたって、支部の整理統合が行われてきたことが分かってきた。

 支部というものは、新宗教にとって極めて重要なものである。ある支部に属している人間が誰かを勧誘し、新しく信者にした場合、新しい信者は、勧誘した人間が属している支部に所属することになる。

 たとえば、横浜支部に属している信者が、千葉県に住んでいる人間を勧誘しても、千葉にある支部に所属するわけではない。横浜支部に属することになるのだ。つまり、同じ支部に属している人間同士の関係はかなり緊密で、切ってもきれない状態にあるわけである。

 とくに、支部長にカリスマ的な魅力がある人間が立っていることが多く、その支部長が、本部に対して反抗し独立するというときには、支部全体が、支部長についていくことになりやすい。要は、支部ごとにミニ教団を形成しているような状態なのである。

 その支部を整理統合するということは、支部のメンバー同士の緊密な関係を断ち切ることにもなりかねない。それは、教団の衰退が著しいときにしか行われない非常手段なのではないだろうか。






宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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