カルチャー
2015年10月8日
韓国の宗教――戦後、キリスト教の驚異的な成長
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【6】
文・島田裕巳
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韓国にある「創価学会」に似た組織


 アメリカ合衆国中央情報局(CIA)が編纂した『ザ・ワールド・ファクトブック』では、韓国ではキリスト教が31.6パーセントで、仏教が24.2パーセントという数字が掲載されている。無宗教が43.3パーセントともっとも多くはなっているものの、キリスト教は仏教を凌駕している。
 この数字は、日本のキリスト教徒が1パーセントにも満たないことと比較すれば、驚異的な数字である。別の資料によれば、プロテスタントが全体の18.3パーセントで、カトリックが10.9パーセントとなっている。

 プロテスタントの教会のなかで、もっとも強い勢力を誇っているのが、汝矣島(ヨイド)純福音教会であり、2007年の時点で、83万人の信者を抱えている。世界には、100万人の信者がいるとも言われる。
 この教会は、1958年に趙鏞基(チョー・ヨンギ)という人物が創始したもので、経済成長の続くなかで、その勢力を大きく伸ばしてきた。ソウルの汝矣島に大規模な教会堂を設け、『国民日報』という日刊の新聞を出している。

 宗教団体が発行する日刊の新聞ということでは、日本の創価学会が出している『聖教新聞』が思い浮かぶ。日本で、日刊の新聞を出している宗教団体は創価学会だけであり、それは多くの信者を抱えているからにほかならない。
 汝矣島純福音教会も、それだけ大きな勢力を築き上げていると言えるが、この教会の宣伝ビデオを見てみると、さまざまな点で、創価学会に似ている印象を受ける。海外への進出を大々的に宣伝しているところも同じだ。おそらく、汝矣島純福音教会は、日本で創価学会が果たしてきたのと同じ役割を担ってきたことであろう。ただ、政治の世界への進出は果たしていない。

 最近では、ソウル首都圏への人口の集中が一段落したせいか、韓国におけるキリスト教の伸びも止まっている。一時は、40パーセントを越すのではないかともいわれていたが、そうした予測は現実味を失っている。
 この点でも、創価学会に代表される日本の新宗教と似ている。
 両者は、驚異的な経済成長による都市部への人口集中によって巨大化したものであり、経済成長が限界に達して、低成長の時代に入れば、それまでと違って信者を増やしていくことができないのである。

(続)





宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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