カルチャー
2015年10月15日
中国で起きる、宗教がらみの社会問題
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【7】
文・島田裕巳
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 中国では富裕層が増え、「爆買い」などといった派手な消費活動を展開して注目されているが、一方で、経済格差は拡大している。中国社会科学院と社会科学文献出版社がまとめた「社会青書」によると、2012年において、中国の都市部と農村部の住民一人当たりの平均収入の格差は20倍強にのぼった。また、世界銀行の調べでは、同じ年の国民一人当たりの平均所得は6091ドル(約62万円)であったが、農村部はほとんどが1000ドル以下、つまり、年収が12万円以下なのである。

 中国政府は、共産主義の政権である以上、国民のあいだに平等を実現することをめざしてきたはずである。中国が開放政策をとり、市場経済を導入することによって、たしかに驚異的な経済発展を実現した。それによって、中国は世界の大国として、アメリカや日本、そしてEU諸国と対抗できるだけの国力を身につけたわけだが、一方で、平等の理念は実現されず、経済格差は拡大するに任されてしまっている。

中国に潜む「地下教会」とは?


 そのように、政治に期待できないときには、宗教に頼らざるを得ない。そこで、今中国で注目されている宗教が儒教であり、キリスト教である。
 儒教については、1966年から77年まで続いた「文化大革命」において、「批林批孔運動」が展開された。これは、毛沢東の追い落としをねらった林彪と儒教の開祖である孔子を批判する運動である。

 私は、毛沢東が亡くなった翌年の1977年夏にたまたま中国を訪問する機会に恵まれたが、そのときに、批林批孔運動が展開されている光景を目にした。
 ところが、現在の中国では、倫理道徳の根本には儒教があるといことで、その価値が見直され、儒教を学び直そうという運動が広がりを見せている。中国政府の側としても、社会秩序が乱されることには強い危機感を抱いているわけで、2011年には天安門広場の目と鼻の先にある中国国家博物館に10メートル近い高さの孔子像が建てられている。

 このように、儒教の場合には、中国政府もその復興を積極的に支援しているわけだが、もう一つ、難しい関係をはらんでいるのがキリスト教の場合である。
 中国政府が出した「宗教青書」では、中国のキリスト教徒の数はおよそ3000万人で、プロテスタントが2300万人、カトリックが700万人とされている(2010年)。
 これに対して、キリスト教の側は、より多くの数字を上げており、もっとも多いものでは、中国には1億4000万人のキリスト教徒がいると見積もられている。これは、中国の総人口のおよそ8パーセントにわたる。韓国ほどではないが、日本よりははるかに多い。日本人が考えている以上に、キリスト教は中国に浸透しているのである。

 ただ、キリスト教に対しては規制が厳しく、教会が当局によって、違法建築の名目で破壊されるといったことも起こっている。
 しかし、当局が弾圧しなければならないのも、それだけキリスト教の勢力が拡大しているからで、とくに、「地下教会」と呼ばれる非公認の教会に人々は集まっている。こうした教会は、指導者がカリスマ性を発揮し、病気治しなどを行う福音派である。中国でも、経済発展が続く国では必ずや台頭する福音派がその勢力を拡大しているのである。

(続)





宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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