カルチャー
2015年12月10日
「統一教会」「幸福の科学」で進む信者の高齢化
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【15】
文・島田裕巳
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新宗教の高齢化問題


 統一教会のことは、1990年代の前半に、霊感商法や合同結婚式ということが話題になったが、実はその時代にはそれほど多くの信者を獲得できてはいなかったようなのだ。
 そんなおり、公益財団法人国際宗教研究所が刊行している『現代宗教2014』という雑誌に、「新宗教における高齢化の問題―老後の経験の諸相」という論文が掲載された。
 著者は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス名誉教授であるアイリーン・バーカーであった(翻訳は高橋原)。

 オウム真理教の事件が起こったとき、彼女は来日し、私も会って話をしたことがあるが、専門は新宗教運動だった。
 バーカー氏は、その論文のなかで、イギリスに存在するいくつかの新宗教教団を取り上げ、そうした組織において高齢化が進行している事態を指摘し、その上で、それぞれの教団がどのような対応をしているかを論じていた。

 新宗教と高齢化ということは、なかなか結びつきにくい。既成宗教なら、高齢化の進行は理解できるが、新宗教には若者の運動というイメージがつきまとうからだ。
 たしかに、新宗教に入信するのは若い世代である。バーカー氏の論文によれば、イギリスの統一教会の信者の場合、1970年代を通して入信時の年齢は23歳前後で一定しており、信者の平均年齢も1976年の時点で26歳であったという。

 1976年に26歳ということは、1950年の生まれということになる。これは、日本で言えば、団塊の世代に相当する。日本では1947年から1950年までに生まれた団塊の世代と呼ばれる年齢層が数としては突出しているが、世界的にはベビー・ブーマーと呼ばれ、年齢の幅も広い。第二次世界大戦後が終了し、その直後に大量に生まれた世代がそれに当たるのだ。

 これがそのまま日本の統一教会に当てはまるかどうか、その点については検証が行われてはいないが、裁判所で見かけた一団の年齢構成から考えれば、日本でも状況は変わらないように見える。1970年代に入信した信者たちは今でも教団に残っているが、その後入信者を増やすことには成功していないため、教団の高齢化が進んでいるのである。
 運動が盛り上がっている時代には、多くの人間が入信し、彼らが教団の中核を占めていく。ところが、その後、運動の熱気がしだいに醒めていくと、入信者も減っていき、若い世代が入ってこない。
 となると、時間が経つとともに、信者の高齢化が進み、教団は活力を失っていく。そうなると、若い世代が入ってくることも余計難しくなる。世代が違い、溶け込むことが難しいのである。

「幸福の科学」はどうなのか


 これは、幸福の科学の場合にも当てはまる。
 幸福の科学は、一時、1000万人の信者を抱えていると称していたため、日本で最大の新宗教団体として紹介されることもあるが、実際の信者数はかなり少ないものと考えられる。
 都市部では、幸福の科学の建物を見かけることが多い。正面がギリシアの神殿風であったりして目立つからである。

 しかし、そうした建物は全国で20数カ所しかない。創価学会の施設が1200カ所程度あるのと比較すれば、その数は決して多くはない。
 幸福の科学では、『リバティー』という月刊の機関誌を刊行しているが、あるときそこに、主宰者である大川隆法のどの本から読み出したかというアンケートが掲載されたことがあった。

 それを見てみると、1980年代の終わりから90年代のはじめに刊行された本が上位を占めていた。それは、幸福の科学が派手な宣伝活動を行ったり、作家や芸能人の信者を抱えていることが伝えられた時期に当たっている。
 もちろん、このアンケート結果だけからは正確な判断は難しいが、幸福の科学の場合も、統一教会と同様に、信者の中核は同一の時期に入信している可能性が高い。しかも、それ以降は、それほど多くの信者は入信していないのである。

 統一教会の信者になったのは、高度経済成長の時代に、主に大学に入学するために都市へ出てきた人間たちである。彼らが大学に入ると、そこで左翼の学生運動が隆盛を極めている事態に直面する。だが、彼らはそれにはついていけない。むしろそうした運動とは対極の考え方をもっていたからである。だからこそ彼らは、反共組織、右派の運動体としての原理運動、統一教会を選択したのである。






宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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