カルチャー
2015年10月15日
中国で起きる、宗教がらみの社会問題
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【7】
文・島田裕巳
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世界中で同時多発的に進行する「宗教」の消滅。次に見て行くのは、アジアの大国・中国だ。人類滅亡の予言が受け入れられるその背景には、広がる格差の影響がみられる。「全能神」、「法輪功」など中国の新興宗教とはどんなものか。「ポスト資本主義時代」の宗教の未来を暗示する長期連載、7回目。


中国で支持された「人類滅亡」


 おそらくほとんどの人は知らないだろうが、2015年9月3日に人類は滅亡するという予言があった。
 もちろん、その期日は過ぎてしまったので、予言は的中しなかったことになるわけだが、2015年9月には世界が水没すると予言していた人たちもいた。
 予言のことは知らない人でも、2012年に人類が滅亡するという予言があったことは覚えているのではないだろうか。
 そう、「マヤの予言」というやつだ。
 古代のメキシコで栄えたマヤ文明では、いくつかの暦が用いられていたが、マヤ文明には歴史が循環していくという考え方があり、暦も、周期を区切る長期暦になっていた。その暦が、2012年の12月21日から12月23日頃に一つの区切りを迎えていたことから、そこで人類は終末を迎えるのではないかと考えられたのである。

 アメリカでは、この予言をもとに、『2012』という映画が作られ、ヒットした。日本でも初登場1位を飾るなど、そこそこ当たった。
 ところが、この映画がアメリカや日本以上に大ヒットした国があった。それが中国である。この映画が公開された2009年には、興行成績の第1位を獲得した。2012年に人類が終末を迎えるという映画が大ヒットしたということは、そうした予言に信憑性があると感じた人たちがいたことを意味する。
 日本の場合にも、1973年に起こった「オイル・ショック」の直後に、1999年7月に人類が滅亡することを予言する『ノストラダムスの大予言』(五島勉、祥伝社ノン・ブック)が大ベストセラーになった。翌年には映画も公開されて、これも大ヒットし、『ルパン三世 念力珍作戦』との二本立てだったが、興行成績の第2位を獲得した。
 この時代に、ノストラダムスの予言を知った子どもたちのなかには、自分たちは1999年までしか生きられないと信じるようになった者たちが少なくない。後に彼らはオウム真理教に入信していくことになるが、高度経済成長の終わりを告げるオイル・ショックが巻き起こした不安は、人類社会の滅亡を信じさせるまでに至ったのだ。

中国の「新興宗教」とは?


 中国の場合、2008年の秋には、「リーマン・ショック」が起こり、やはりその影響を強く受けていた。そうした状況のなかで、2012年に人類が滅亡を迎えるという予言が信じられたわけだが、「全能神」という中国の新宗教の教団は、『2012』の映画が大ヒットして以降、終末論を説くようになっていく。これも、日本で、オイル・ショックの後に、1999年に人類が滅亡するといった終末論を説いた「新興宗教」が台頭したのと共通している。
 この全能神は、キリスト教系の新宗教で、1991年に黒竜江省において趙維山という開祖によって創始された。これは、政治的にもかなり過激な集団で、中国共産党を「巨大な赤い龍」と呼んで批判し、それを倒して新しい政府を打ち立てると主張した。したがって、中国政府は、この教団を「邪教」と認定し、その取り締まりを行った。
 2012年に人類が滅亡するという予言を利用して、全能神は信者を集めたが、それによって中国政府からは反政府活動の疑いをかけられ、幹部など1000人以上が拘束された。
 しかし、最盛期で信者は200万人を超えたと言われる。組織の規律は厳しく、脱退者を厳しく処罰するための専門の部署までもっているため、抜けるのが難しいとされている。
 2014年5月28日には、山東省招遠市にあるマクドナルドの店内で、全能神の信者6人が、入信を拒否した女性を殴り殺すという事件まで起こしている。

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宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。